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第2章:古民家
軽トラックを降りて風情ある小路を歩くと
テレビの音や朗らかな話し声が聞こえてくる。
杉板で覆われた家屋が密集して建て並び
迷路の様に小路が張り巡らされた町並みは
ノスタルジックで懐かしい
それは幼少期に優里が母親と暮らした
下町に何処か似ていた。
「お~慎ちゃん今日も来てくれたのかい?」
リアカーに野菜を積んで歩くお婆ちゃんが
皺だらけの顔に優しい笑みを
浮かべながらそう言うと
慎太郎は嬉しそうに微笑み返した。
狭い小路ですれ違う島民は皆が慎太郎に
会釈したり親しげに話しかけてくる。
その集落は温かい人情に溢れていた。
「皆さんから慕われているんですね」
優里がそう言うと慎太郎は頬を赤らめて
恥ずかしそうな表情を浮かべた。
此処は慎太郎が生まれ育った集落
街を渡り歩き住む場所を点々としてきた
優里にとって故郷と呼べる場所がある
慎太郎は羨ましく思えた。
小路から浜辺に足を運ぶと集落に面した
入り江が見えた。
明治時代まで漁師町として栄えた港だ。
その入り江の畔には合掌造りの趣ある
古民家が佇んでいた。
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