第2章:古民家

1/3
前へ
/8ページ
次へ

第2章:古民家

軽トラックを降りて風情ある小路を歩くと テレビの音や朗らかな話し声が聞こえてくる。 杉板で覆われた家屋が密集して建て並び 迷路の様に小路が張り巡らされた町並みは ノスタルジックで懐かしい それは幼少期に優里が母親と暮らした 下町に何処か似ていた。 「お~慎ちゃん今日も来てくれたのかい?」 リアカーに野菜を積んで歩くお婆ちゃんが (しわ)だらけの顔に優しい笑みを 浮かべながらそう言うと 慎太郎は嬉しそうに微笑み返した。 狭い小路ですれ違う島民は皆が慎太郎に 会釈したり親しげに話しかけてくる。 その集落は温かい人情に溢れていた。 「皆さんから慕われているんですね」 優里がそう言うと慎太郎は頬を赤らめて 恥ずかしそうな表情を浮かべた。 此処(ここ)は慎太郎が生まれ育った集落 街を渡り歩き住む場所を点々としてきた 優里にとって故郷と呼べる場所がある 慎太郎は羨ましく思えた。 小路から浜辺に足を運ぶと集落に面した 入り江が見えた。 明治時代まで漁師町として栄えた港だ。 その入り江の(ほとり)には合掌造(がっしょうづく)りの(おもむき)ある 古民家が(たたず)んでいた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加