塔の絵

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殺風景なその部屋には小さな絵だけが飾られていた。そしてその絵には光り輝く塔が描かれている。 現実には無い塔… その前には笑顔の少女が描かれている。 昔のこと、町外れの家に一人の画家の男が住んでいた。独り身で絵は売れず、別の小さな仕事もして、その日暮らしをしていた。 ある夜、一人の年老いた男が画家のもとを訪れた。 「一つ、塔を描いてほしいのです…」 久々の依頼に画家は喜んだが、描いてほしいモデルの塔は今は無いという言葉に少々戸惑った。 「モデルがないのですか?では、私の好きなように描いてもよろしいので?」 「いいえ、時が来ればわかります…私の描いてほしい塔というのが…」 老年の男は銀貨を置いて、男が目を離している間に何も言わず消えてしまった。 「一体、何を描けと言うんだ??期限はおろか、いつその塔を教えるとも言わずに…。からかわれたのか??…銀貨まで置いて……」 画家は次に男が現れるまでは銀貨を使わずにおくことにした。 数日経っても男は画家のもとに現れない。 「全く…金まで置いて俺をからかうなんて…。」 さらに数日経って、画家は夢を見た。 小さな娘が、周りの景色も見えないほど光に満ちた場所に立って、何かを探している。 しかし探しているものが見つからなかったのか、その少女はその場で泣き崩れてしまった。 (あれは…あの子を俺は知ってる…!) 忘れるはずもないその少女は、画家が小さい頃に好きだった相手だった。 「(リリ…!俺だよ…!)」 画家は夢の中で少女に呼びかける。 少女には画家が見えないうえ、声も聞こえないようで、泣き崩れた少女を前に、画家は成すすべもなかった。 (あんなに泣いてるのに…あのときと同じだ……) 少女と画家は仲が良く、いつも一緒に遊んでいたが、少女の家は貧しく、両親の仕事のために引っ越さなければならなくなった。 少女は行きたくないと泣いて画家にすがったが、自分も幼かった為、どうしてやる事もできなかった。 (俺はあのとき、何もしてやれなかった…) 少女はその後すぐ、流行病で亡くなったと少女の両親から手紙で知らされた。 「(リリ…!何を泣いてるんだよ!?俺に教えてくれ!力になりたいんだ、今度こそ…!!)」 夢の中の少女は、涙に濡れた瞳で天を仰いだ。 (空…?)
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