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画家も空を見上げたが何も見えなかった。かと思うと、ぼんやりと、空に向かって何か伸びているものが現れた。
それが何なのかはよくわからない。しかし少女は悲しげにそれを見ている。
(なんだ?あれ…。あれが、リリの探していたものか??)
そこで画家は目が覚めた。
(リリが見ていたものはなんだろう…?リリはどうして…)
その後も繰り返し見るその夢に悩み、絵の依頼の男は現れず、画家はなんとか日々を暮らすための小さな仕事を、無理矢理こなして過ごした。
ある夜、やっと依頼の男が現れた。
「あなたには見えましたか?空に届く塔が。」
挨拶に頭を下げてから開口一番にそう言われ、画家は言い返そうとして、ハッと気づいた。
「……まさか、リリの見ていたのは…あの…」
おかしいことを言ったのはわかっていた。自分が夢で見たもの、そんなこと、教えてもいない他人が知るわけがない。しかし、そう考えると合点がいった。
「そうです。あなたが夢で見た、その塔を描いてほしい…。」
男は懇願するように言った。
「そんな……だって、ぼんやりと何かがあるようにしか…!」
「あの少女を助けるためなのです…。あなたに頼みたい…」
「…リリを…?あなたは一体…。」
「あなたなら、きっと見える…助けられます……」
男はやはりそのまま消えた。
「…。」
………
「…わたしね…生まれかわったらお星さまになりたい…。」
「なんでリリは星になりたいの?」
「んっとね…夜、だれもさびしくないように。」
「じゃあオレは、ずっとそのリリの星のそばにいるよ。リリがさびしくないように。」
「うん、ずっといっしょ!」
………
「(生まれ…変わったら…)」
そのとき画家は、夢でぼんやり見えていた塔が、頭の中にはっきりと浮かんだ気がした。
「…リリ…!」
その日から画家は頭に浮かんだ塔の絵を描き続けた。別の仕事も受けず、食事もろくに摂らず…
そして、何日も掛かってやっと、塔の絵を描き上げた。
「リリが望むもの、俺はできたかい…?リリ…」
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