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歓迎されていた冷たい風が身を庇う相手に転じた頃、ダムさんは死体で発見された。
路地裏だった。並んだゴミバケツの合間を縫って、汚れた路面を埋めるように倒れていた。仰向けで、身を片側に反らせた姿勢は三日月を思わせたが、そう見えたのは体の半分がごっそり削り取られていたせいだった。
左側の胸辺りで肉が弾けて広がり、折れた骨が突き出ている。右や左に先端を向けた白い骨は花芯を思わせたが、折れていることを計算に入れても数が足らない。
心臓を守り、かつ監禁する檻である肋骨。それが一本、根元から消えていた。
彼を見つけたのは私だった。縄張りの巡回の途中で、いつもなら比較的新鮮なものが入手できる良い猟場だった。
ダムさん、と声をかけたのは胸の内だけだ。その変わりように目開きのまま気を失い、気がつけば人だかりの外で壁に背を預けていた。屍の惨い様に野次馬はあれやこれやと囁き合っており、遠巻きにする私たちも似たような反応だったが、両者には大きな間隙があった。
いずれこうなる気がしていた。
私たちは、予見していたのだ。
拾った週刊誌には死体の詳細が記されていた。
あの時は頭が奥向きで見えなかったが、ダムさんは頭蓋骨にも損傷があったらしい。記事には骨が割られて中身に噛み跡があった…とある。
情交の痕跡も認められた。その部分を読み上げられると、みんな揃って目を伏せた。あの出来物だ。女と言えば思い当たるのはそれしかない。誰もがそう思い、しかし口にする者はいなかった。
「野良犬だろう」
読み上げている仲間が、話を強引に頭の噛み跡に戻した。
「畜生はむごい真似しやがる」
「犬じゃねぇ。ありゃ人の歯型だ」
一人が呟く。遺体を運び出す際、担架の覆いがわずかにずれて確かに見たと主張する。反論する者はいなかった。歯形の主も、きっと同じだろう。
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