11『ポナとまちがわれた優里』

1/1
前へ
/92ページ
次へ

11『ポナとまちがわれた優里』

ポナの季節・11 『ポナとまちがわれた優里』    ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)  雷門の大提灯は下半分が畳まれていた。神輿の渡御の邪魔にならないためだ。  人をかき分け、かき分けられ、もみくちゃになりながら神輿の渡御を「ソイヤソイヤ!」と囃しながらながら観る。これが正当な三社祭の鑑賞方法だ。  昨日は、こともあろうにドローンで、これを撮影しようとして保護というか捕まった少年がいた。そんなことが頭をかすめるうちに次々とお神輿は雷門をくぐっている。四つ目の神輿が通ったあと声を掛けられた。 「寺沢さん!」  半ば咎めるような声に振り返ると、見知らぬ女性が立っていた。 「あ……ごめんなさい、人違いでした」 「いいえ、あたしも寺沢ですから」 「あ……?」  そこへ五つ目の神輿、二人とも「ソイヤソイヤ!」の掛け声に忙しくなった。 「あの、ひょっとしてポナの学校の先生ですか?」 「え、どうして?」 「あたし、ポナの下の姉の優里です。背格好が似てるんで、昔からよく間違われて」 「あ、そうなんだ。で、ポ……新子さんの具合はいかがですか? あ、あたし保健室の棚橋といいます」 「熱は下がったんですけど、明日から学校なんで休ませています。本人は観に来たがってましたけど、代わりにあたしが観て映像撮って話ししてやることになってます(^▽^)」 「そうだったんですか、じゃ、無理しないようにお伝えください。あ、棚橋じゃ分からないからエミちゃん先生からって」 「承知しました、あ、次のお神輿が」  掛け声をかけているうちに、エミちゃん先生とははぐれてしまった。まあ、挨拶と申し伝えは承ったので――まいいか――と優里は思った。  小さいころのポナを思い出した。  四つも歳が離れているが、それでも兄妹の中では一番歳が近く、ポナはなにかにつけて優里の真似をした。体つきが四つ下のころの自分と同じくらいだったので、ポナは中学の制服も優里のお下がりだった。  小さいころは、それで喜んでいたが、年頃になると嫌がり、高校は優里が出た乃木坂ではなくて、世田谷女学院を選んだ。少し寂しい気持ちもあったが、ポナの将来の自立のためには、いい選択だと思った。  ポナが病院からやってきた日のことは、はっきり覚えている。 「ほら、優里の妹よ。可愛がってあげるのよ」  お母さんが、そう言った時、とても嬉しかった。直ぐ上の優奈とは七つも離れていて、四つの歳まではミソッカスだった。  自分がミソッカスで無くなるのも嬉しかったし、妹ができたことは素直に嬉しかった。  自分が小学校に上がるころには、いつも付きまとうポナが、少し邪魔だったけど、何かにつけて自分に似ているポナが可愛くないわけではなかった。でも、寺沢家は大勢な上にみんな独立心が強く、ポナといっしょにいる時間は、うんと少なくなった。 「おい、優里!」  後ろから声を掛けられた、今度は自分の名前。  優里は自分の顔が赤くなっていくことをどうしようもなかった。  ポナのことは、完全に頭から消えてしまった。 ※ ポナの家族構成と主な知り合い 父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師 母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん 長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉 次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員 長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官 次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ 三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account ) ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。  高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校) 支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加