12『選挙』

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12『選挙』

ポナの季節・12 『選挙』     ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名  ポナの父達孝は来春には定年をむかえる都立A高校の教諭である。  もう三十七年も勤めているので、できたら早期退職したかったが、下の娘二人がまだ現役の高校生と大学生なので辞めるわけにはいかない。  学校も、その辺の事情は分かっているので、分掌長や担任などという面倒な仕事からは外してくれて、平の生徒会顧問という穏やかなポジションにしてくれている。文化祭と体育祭、それに間近の生徒会選挙をこなせば講師時代も含めれば四十年になろうかという教師生活に幕が下せるはずだった。  が、ここへ来て、ちょっとした問題を抱え込んでしまった。  予定していた生徒会の会長候補が降りてしまったのだ。  理由は大阪の知事選挙でHが惜敗したからである。会長候補の三年生は大のHファンであった。今どき生徒会活動にも熱心な二年生だったが、こういうところは子どもである。  選挙の公示を間近に控え、顧問も生徒会執行部も頭を抱えた。 「分かりました、わたしが何とかしましょう」  達孝は、まるでコンビニの弁当を代わりに買いにいくような気楽さで引き受けた。 「どうだ真由、Hさんは、ほんとうに辞めると思ってるのかい?」 「だって、夕べ、あんな清々しい顔で宣言したんだもん。あの人の性格から言っても、辞めますよ」  若い顧問にはぞんざいだが、定年間近の達孝には、学年一の生意気女子も敬意を払ってくれている。 「組織が放っておかないよ。Hさんの党は、あれだけの大所帯になって国政にも影響力を持っている。周りが放っておかないさ、真由みたいにな」  と、くすぐっておく。 「そうなんですか。でも…………えと……じゃあ、寺沢先生も例の話ししてくれます?」  真由と、その取り巻きが達孝の周りに集まった。  達孝の妻の豊子が教え子であるという噂は、三回目の転勤先であるA高校でも伝わっているが、達孝は、そのことを聞かれても笑ってごまかしてきた。 「じゃあ、触りだけな」  達孝を囲む輪が一回り小さくなって寄ってきた。 「うちのカミさんは、最初の学校で最初に教えた生徒だ。それは認める」  小さくなった輪は、この一言で人数が増え、一回り大きくなった。 「ただ、付き合いだしたのは、カミさんが卒業してからだ」 「でも愛し合ってたんですよね!?」 「当たり前でしょ、愛してなきゃ五人も子どもができるわけないさ!」  真由が言って、取り巻きがくすぐったそうに笑う。  生徒は、意外にも子どもの人数まで知っていた。 「「「「「「それで!?」」」」」」 「続きは真由が当選してからだ」  あっさりと会長候補が決定した。  ところ変わって世田谷女学院。 「ね、あたし副会長に立候補するから、応援よろしくね!」  朝、昇降口で一緒になった橋本由紀が、ポナの肩を叩きながら言った。 「え、すごいじゃん。一年で副会長、見上げたもんよ!」  由紀とは、出席番号が近いこともあって、集会や行事の時に話す機会が多い。支倉奈菜の次に親しい間柄だ。 「ポナは、自分で思っている以上に影響力あるから、よろしく頼むね!」 「過剰な期待はしないでね、ただ賑やかなことが好きってだけだから(^_^;)」 「ご謙遜、ご謙遜、ポナが付いてくれたら百人力よ!」  都立A高校と世田谷女学院の生徒会選挙は、期せずして寺沢親子が関わることで進み始めた。 ※ ポナの家族構成と主な知り合い 父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師 母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん 長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉 次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員 長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官 次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ 三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account ) ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。 高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校) 支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子 橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補
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