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三十五度越えの、今年一番暑かった日。
夕方になっても体感温度はちっとも下がらず、私はハンカチで汗を拭いながら、駅前にあるチェーン店の居酒屋へ駆け込んだ。
電車に乗って隣町の駅まで行けば、もっとおしゃれな店もあるけれど、私たちの住む最寄駅で、飲みに行くといえばこんな居酒屋くらいしかない。
だけどわざわざ電車に乗って、丹野とおしゃれな店に行く理由なんてないし、この店を指定してきた丹野だって、ここで十分だと思ったのだろう。
それにこの店は、大学生の頃、時々訪れた場所だ。
丹野と私と、あの人の三人で。
冷房の効いた店へ入ると、丹野がにこにこしながら私に手を振った。
「菜々実さぁ」
席に向かう二年ぶりに会った私に、丹野は挨拶もなく話しかけてくる。
「ちょっと太った?」
「は? あんたねぇ、久しぶりに会った女子に向かって、第一声がそれ?」
丹野がおかしそうに笑い、席に座った私にメニューを差し出す。
「うそうそ、俺いま、すっげー嬉しい。まぁ、今夜は飲も飲も」
「あんた、私を酔わせて、何かヘンなことしようと、たくらんでない?」
「まさか。お前を酔わせる前に、こっちが先につぶれるわ」
またへらへらと笑って、丹野は私が言う前に、生ビールを注文してくれた。
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