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月の光 2
ひょっとして生きている人間かもしれないし、死体なのかもしれないとも思ったが、妙な確信が沸いて、人間ではないモノだと思った。
さらに近づいて、人形の顔から苔と泥を取り除くと、緑色の大きな目が瞬きをして、何かを言いたげに見えた。頭と顔は硝子で出来ているのか、透明だった。
苦し気な様子に見えるので、身体の全体を土から取り出し、全身を覆っていた、泥を取り除いてみた。全身が、透明で、内部には骨格のようなものが見える。
しばらくすると、体の中が銀色に光りだし、やがて表面はプラチナのような灰色の金属で覆われ、それがまた柔らかな皮膚に変わっていった。
体つきは人間そっくりだが、ロボットのようにも見える。ようやく落ち着いたのか、人形が話しかけてきた。人形の名前はモナと言った。
「箱舟はどうなりましたか?子供は無事ですか?」唐突にモナが尋ねた。
箱舟とは何のことか、尋ね返すとモナはゆっくりと過去の記憶を語りだした。
モナは神々の争いから逃れるために、箱舟を作り、そこに生き物や植物の種などを乗せて、海を目指して大河を渡ろうとしていた。
しかし、モナがいざ箱舟に乗り込もうとしたその時に、幼い子供の泣き声が聞こえた。既に嵐となり、大雨と強風が吹きだしていたのだが、モナはその子供を放っておけず、切れ切れに聞こえる泣き声を頼りに子供を探し、やっとの思いで箱舟に戻ってきた。
子供を先に箱舟に乗せ、モナも続こうとしたのだが、雷鳴がとどろき、箱舟は大きく傾いた。モナは弾みで、タラップを踏み外し、泥水の中に投げ出されてしまった。モナは箱舟から、どんどん離れてゆきそのまま、濁流にのみこまれてしまったのだ。
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