ばん、ばん、ばん。

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「おい海志(かいじ)、反応冷たいぞ。どうせ無理だろ、とか思ってんな?」  僕のつれない対応が不満だったらしい竜仁は、口を尖らせて抗議した。中学まで柔道をやっていた巨漢がそんな顔しても可愛くないぞ、と僕は呆れてしまう。 「だってさあ、普通に考えてみろって。社会人やるよりずっとキツいと思うぞヨウチューバー。収入は安定しないどころか、最初は微々たるものだろうし。犯罪にならないスレスレを攻めて死にかける奴だって最近ちらほらしてるだろ。かといって、他のみんなががやるようなことやったって、そうそう人閲覧数なんか稼げないだろうしさあ」 「俺だってわかってるってそれくらいは。最初はちゃんとバイトと併用するよ。つか、撮影機材も買わないといけないし」 「……そこまでわかってるってなら、まあ無理に止めないけどさ」  果たして、こいつの母親は納得するんだろうか、とついつい僕は心配してしまう。竜仁は幼い頃に両親が離婚していて、今は母親と二人暮らしのはずである。シングルマザーの竜仁の母が、竜仁のことを目に入れても痛くないほどに可愛がっていることを僕は知っていた。何度も家に遊びに行って、彼女と話したこともあるのである。正直、母親の過保護ぶりに竜仁はかなり辟易している様子であったが。  まあ、それは今の自分がどうこう考えることでもない。どちらかというと気になるのは、こいつがどんな動画を配信するつもりでいるのかということだ。あまりに危ないことをやろうとするなら、友人として全力で止めなければいけないと思っていた。 「危ないことや、人に迷惑かけるようなことすんなよ?あと食物系はやめとけよな。ついこの間、ナメクジ食って死んだヨウチューバー出たばっかりだからな?」  ちなみに、激辛料理の大食いをやって死んだ奴もいることを僕は知っている。大食い、早食い、ゲテモノ食いは一種テンプレートであるようだが危険であることに変わりはない。個人的に言えば、いくら閲覧数のためとはいえ、ナメクジやカブトムシを食べてみようとする奴らの気がまったく知れないわけだが。 「俺そんなメシ食えるわけでもないし、やんないって。そもそも最初からそんなヤバイものやるわけないだろ?」  というわけでこれだ!と彼が学校のカバンから取り出したもの。それは一本のゲームソフトだった。どうやら海外のものであるらしく、パッケージの文字は全く読めない。アルファベットのように見えたが、明らかに英語ではなかった。イタリア語とかフランス語のあたりだろうか。  というか高校にゲームソフト持ってくるなよ、と思う僕である。 「何語だこれ。Z……Mord?なんか銃持ったオッチャンがこっち睨んでるけど」 「有名なサバゲーでホラゲー!そっち界隈でひそかに話題沸騰中だもんだから、ナナゾンで購入してみた!」  ふっふっふ、と学生らしからぬ老け顔に悪役じみた笑みを浮かべて、竜仁は言ったのだった。 「明日から、このホラゲー実況始めるかんな!海志クンよ、付き合いたまえ!」
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