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――なんか、事前設定が細かいな。今日の日付……2020年の、9月11日Friday……。本名と性別も入れるのか。それで、住んでるところ……おいおい、そんな細かく入力して個人情報大丈夫か?なんで住所まで入れる必要があるんだ?
少し疑問に思ったが、僕がツッコミを入れるよりも前に竜仁はゲームをスタートさせてしまった。彼がスタートボタンを押した直後、何故か入力してある月と曜日の欄がカチリと勝手に切り替わる。2020年10月11日Sunday。何でわざわざ入力させといて、一ヶ月後に設定を変更するのか謎である。というか、一ヶ月後の11日は本当に日曜日なんだろうか。カレンダーを見ていないので定かでないのだが。
「おお、超リアルっすね!」
そんな僕をよそに、竜仁ははしゃぎ始めていた。テレビ画面の中に表示されたのは、リアルな街の風景である。これはもしや、ゴーグル先生のストリートビュー機能かなにかを採用しているのだろうか。3Dというより、実写にしか見えない風景がテレビの中に広がっている。しかもそれはこの家の近所――すぐそこのS三丁目交差点そっくりに見えるのだが。
「え、ちょっと気持ち悪くない?家の住所入れたら、すぐ近所の風景が出てくるとか。個人情報流出しない?大丈夫?」
「もう、友人は心配し過ぎだなあ!リアリティあっていいじゃねーか。……えっと、なるほどなるほど。主人公は凄腕の暗殺者って設定らしいな。大昔の怪我で、お化けみたいに恐ろしい外見になってしまって人々に怖がられていたところ、とある国に拾われて傭兵として鍛えられたそうな。……ふんふん、しかしその国が結構やばい宗教を持ってる国である、と」
「英語苦手なくせに、お前ゲームに関わると翻訳はっえーなおい」
竜仁は、説明書に書かれている英語をスラスラと読み解いていく。
彼の言葉が正しければ。主人公は、あるカルト宗教に染まった国にスパイとして送り込まれた存在であるらしい。その宗教は、人間の心臓をより多く集めて儀式を行うと、自分達の信じる神様を召喚できると思っているというものであるようだ。聞いているだけでやばいどころの話ではない。プレイヤーは主人公を操作し、上司が指定してきた“神聖な心臓”を持つ人間を見つけ出して暗殺し、臓器を持ち去るのが仕事であるようだ。
――ぐ、グロい。グロすぎる。これ高校生がやっていいゲームだったのか?
僕はちらり、とパッケージを見直した。どう見てもCERO-Zだろと思いきや、なんとパッケージには年齢制限がまったく書かれていない。輸入品だからなのだろうか、段々心配になってくる。
「お、早速指定入ったぞ!」
ドン引きしている僕をよそに、どうやらゲーム上で上司の“指令”を受け取ったらしい竜仁が声を上げた。どうやら、緑色のジャンパーを着た人物を探して襲え、ということらしい。ゲームを始めたところなので、まだ主人公は初期装備のハンドガンしか持っていない。弾数も少ないし威力も低いので標的に逃げられないように速攻で仕留める必要がありそうだった。
S三丁目交差点としか思えないその場所は、日曜日ということもあって人でごった返している。主人公が人ごみを掻き分けながらすいすいと進んでいくと、やがて標的発見を示す赤いマークが出現した。交差点の真ん中で、紺色の帽子をかぶって緑色のジャンパーを着た大柄な男がゆっくりと歩いている。どうやら、そいつを狙えということらしい。
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