12話 AI

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12話 AI

 2階層の地下ダンジョンの階段を俺とユイとコニアで降りていく。何もしゃべらずに、ただ階段を下りている足音がコツ、コツっと鳴り響いているだけ。  前来た時と特に変わったところはないな……誰もいないし帰ってもいいような気がするけれど、もう少しだけ見ていくか。  念のため俺は鞘から剣を抜いてから周りを確認するために歩き回る。俺が確認できたのは床に傷がある場所が1か所あったくらい。ユイは何も見つけれなかったらしいが、コニアはまだ戻ってきていなかった。 「ユリ、コニアはどこにいるんだ?」 「奥に歩いて行ったまま姿を見てない。もしかしたら何か見つけたのかもしれないよ?」  確かにと思い、ユイと一緒にコニアが向かった場所に行った。歩いても周りの景色は変わらない。俺たちを暇にさせようという意味で造られたのかと思ってしまうほどキツイ道だった。  20分は経っただろうか。たまに休憩しながら歩き進めていたがとてもどこかに着きそうとは思わなかった。まったく同じの景色。そろそろ転移クリスタルを使おうかなと思った時、奥に青い炎が揺れているように見える。 「あれは明かりか……?」 「炎かな……そんな感じに見える。でもリザードの目の光かも……そうだとしたらここら辺に湧くリザードは強いってことに……」  1つの種類のモンスターでも、強さの上下が存在していて、強くなってくるとリザードだと青い炎のような目となり、オークだと額に傷が、ホークリは毛の色が赤いなどと。俺たちは警戒しながら歩き進めていくと壁だった。青い炎はなく、石の壁。  確かに炎を見たはずなんだけど……幻覚とは思えない。ユイも同じものを見ているんだからな。  その時ふと頭の中で『隠し部屋』という文字が浮かぶ。隠し部屋はごく稀にダンジョンの中に出現する部屋のこと。出現すればずっとそこに隠し部屋はあるようにシステムロックされる。見つけて中に入れば宝箱があるが、たまにトラップの場合の時もあり、俺は隠し部屋を見つけても行かないようにしていた場所。もし青い炎のリザードが隠し部屋にいたとすれば、それはトラップということに。 「まずい!!」  壁に手で触れる。隠し部屋に入るためには手で壁に触れること。俺が手で壁に触れた瞬間、ドアのように開いた。 「もしかしたら転移クリスタルが使えない場合がある。危ないからユイはここで待っていてくれ」  もし何かあった時、俺が助けれる自信がない。ユイを助けたとして、コニアに何かあったらコニアを助けることができなくなる。だったらユイを安全なところにいてもらっていたほうが、落ち着いてみることができる。  ユイは口を開き何かを言いたそうになったが俺が暗い表情をしているのを見て口を閉じた。 「じゃあ、行ってくるよ」  そう言って隠し部屋の中に入っていく。ユイの顔を見ず、前を向いて。  中に入ると後ろが石の壁に戻りユイの姿が見えなくなった。完全に閉じ込められた空間。入ることのなかった隠し部屋に少し緊張をしながら周りを見渡す。 「モンスターはまだ出てこないのか……?」  宝箱もない不思議なエリアと言ったほうがいい。本当に何もないところなのだから。 「何をしにここまで来た」  後ろから男の声。しかし足音は2人のように感じる。恐る恐る振り向くと黒いフードをかぶった男と1人の黒いワンピースを着た少女。  黒いフードということは殺人ギルドか!?……でもあの少女は。殺人ギルド討伐の時にはいなかったはず。仲間なのか?でもこのゲームは13歳以上のゲーム。見た感じ小学5年生くらいの身長の子だが……  敵ということは確か……か。 「お前たちは何がしたい」  剣を構えて戦闘準備をすると「まあまあ」と言い俺を落ち着かせようとする。正直話などせずに縄で縛って連れ出したいところだが、警戒しながら話を聞くことに。 「俺は殺人ギルド元リーダーVAN。1回戦っただろ?」 「お前が!?」  剣を力強く握りしめて剣を振ろうとしたが少女がすかさずオブジェクト化したVANの大剣でブロックする。  信じられない光景。腕の細い少女が大剣を振るっているのだ。これを怖いと言わない奴はいないだろう。 「……!?重たい!お前はどんだけ力があるんだよ!人間……じゃないだろ!」  火花を散らしながらさっきまで押しのけていた側だったのに今ではされている側だ。 「待てよ。こいつを殺すのはまだ早い」  少女はVANの声を聞き、大剣を上に振り上げる。俺の剣は宙を舞い、横の地面に突き刺さった。 「もう少し後に会う予定だったんだがな、サクト」  俺の名前を教えたっけ……別にいいんだが、こいつら、特に少女と戦ったら勝ち目はない。こんなに怖いって思ったのはいつぶりなんだろう……  VANは敵意、殺意は今のところ分からない。VANは少女の頭に手を置く。 「こいつはAI。グロースプログラムで形成された人だ」  グロースプログラムというのは普通のAI、成長型プログラムのこと。他にも最初から情報、つまり知識を与えてそれだけの中で動くAIというものもある。 「サクト、お前とはまだ関わらない、『まだ』」 『まだ』という言葉が嫌だった。これから現れると言っているのと同じ。何より嫌な言葉、一番と言っていいほど。それと同時に疑問も生まれた。現れた、関わり合う機会、それがいつなのか。 「VAN、お前はいつ関わる予定だったんだ?」  俺が聞くと首を小さく横に振りながら「さあ」と知っているかのような―――否、決めているような表情。そして男は後ろを向き、少女が現れるわけのないドアを作り出し、姿を消した。一瞬の出来事、でも俺にとっては長い。長かった。いろいろと推測ができるあの返答、表情。それを考えているだけで10分経っている感覚だった気がする。 「あいつは何を企んでいるんだ……?」  VANの企みの前に重要なことを思い出した。今、ユイは隠し部屋の外にいる。じゃあ、もう1人は?コニアは、どこに行ったのだと――――  隠し部屋にはいないことを確認し、隠し部屋の外に出てユイと合流する。 「何か分かった?」 「分かったとも言えるし、分からなかったとも言えるって感じかな」  よくわからない返答に戸惑うユイ。頭を抱えて考えている最中にコニアを連れて帰っていないことに気がつく。 「ねぇ、コニアさんは?」  分からない。何も分からなかった。どこにもいなかった。あの場所には。 「隠し部屋にいなかったよ、コニアの姿は。その代わりにVANとAIがいた。VANを捕まえようとはしたんだけどAIが強すぎてさ」 「そんなに強かったの?」  大剣を軽々と持ち、ブロックをしたあの姿を見たら戦う気が起きない。それほど強かった。強すぎた。あれに勝てるわけがないと心の隅で思ったのかもしれない。また戦うとなったら1人だと逃げ出すってことも。  いつの間にか手や足が震えていた。ユイは心配そうに見ている。 「大丈夫。問題なのはコニアがいないことだ。VANではないと俺は推測している。あいつの目的は知らないが俺と関係していると思う。コニアをおとりにって可能性があるけれどな、推測……勘かな」 「もし関係ないとしたらどこにいると思うの?」 「そりゃあ………あれ、どこにいるんだろう……」  首をかしげる俺を見てユイは少し呆れた表情を浮かばせる。  いるとしたらVANとAIが移動した場所、拠点か、転移クリスタルでどこかへっていう可能性が高い……。 「一旦ここにはいない。帰ろう、このことを報告しておかないと」  ユイは軽くうなずき、一緒に歩いて帰って行った。
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