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14話 ジャム
≪2500年6月18日 午前9時≫
「おはよう~!!!!」
宿屋のドアをドンドン叩きながらエミが言っている。俺はうるさいなと思いながらドアと反対側を向いて目を閉じた。それに気づいたのかまたドンドンと音を立てて声をかけていく。
「おーい!!サクトさ~ん!!!起きてくださいよ~!!!」
「眠いんだよ~。もう少しだけいいだろ……?」
今出せる声をどうにか出した後眠りにつこうとする。その時物凄い音が鳴り、人が入ってきた。
「これで完了!!どうだ!俺の力は!!」
アイルの言った言葉で俺は勘ずく。物凄い音は――――
「馬鹿かよ……」
眠っていた脳が一瞬で起きる。目の前にある光景のせいだ。木の破片、否、ドアの破片が地面に散らばっていた。お金をいくら払えば修理費を出せるか考えながらもベットの近くにあったアルメリアを手に取り鞘から剣を抜く。
「一旦半分以下まで削ってやろうか!?」
ソードスキルを使わず剣を振った。アイルも鞘から剣を抜いてブロックをしてなんとか耐える。
「おいおい!急にどうした!!俺はお前をお越しに来てやったんだぞ!?エミたちがそう言って――――」
エミを指さそうと後ろを向くアイル。エミは今起きたことが理解できていないのか口を開けたままアイルを見ている。俺はアイルの肩に左手を置き、
「修理費、ちゃんと払えよ」
と言って鞘に剣を収めてヒペリカムを持ち、設定して背中に装備。エミも宿屋から出る準備を。アイルはどうしたんだよと言いながら止めようとする。
「金を払いたくないんだ、俺は、いや、俺とエミは。何も関係ないからな!」
「おかしいって!サクト!ちょっと!!おい!!」
俺とエミはユイを部屋から連れ出し宿屋を出た。
「急に私を連れ出してビックリしたけど……何かあったの?」
「あったあった!サクトさんが早く起きていればあんなことにはならなかったと思いますけどね?」
確かに俺が早く起きて部屋から出ていたらエミがドアをドンドン叩くことなく、アイルがドアをぶち壊してはいることもなかったと思うけどさ……
ユイは話について行けず首をかしげている。俺はユイに簡単に説明すると納得したのと同時に驚きの表情が隠しきれていなかった。
「そりゃあそんな反応するよな。何を使ってぶっ壊したのかは知らないけど……」
「うん……お金もかかるだろうね……」
そういう話をしていると後ろから男の声が。聞いたことのある声。
「おーい!サクト!おいていくなよ~!」
アイルだ。アイルは俺たちのところまできて息を切らしている。結局ドアの件は修理費の支払いをしたらしい。金額は金貨140枚。
「はぁ……次はするなよ……?」
「反省してるって!大丈夫大丈夫!」
全く反省をしていない……アイルは馬鹿、アホって言葉が似あってるわ。
「それはいいとして今日、何をする日だったけ?」
ユイは呆れた顔で答える。
「今日はトラムポッツのメンバーの中で小チームを作って6階層のクエストにそれぞれ挑む。でしょ?」
6階層へ突入し、3つのクエストはクリアされているがあと17のクエストが残っている。そこでトラムポッツが1クエスト以外は分かれてクリアしようということになった。
「そうだったっけ。完全に忘れてた……で、俺たちは何をするんだ?」
「ジャムの討伐、だったと思うよ」
みんなが美味しそうな名前だな~と言ったがジャムはかなり手強い。魚人の見た目で水を剣に変化させて戦うというわけのわからないことをしてくるモンスター。ジャムが水を剣に変化させたその剣のことを『ナーガ』。ジャムが強くなるにつれて水を剣だけでなく槍にもできるようになってくるらしい。変化させれるものが増えていくと体に傷が1つ付く。ジャムのクエストの場所は6階層の『コート』という場所。
「ちゃんと戦う準備はできたか?俺はポーションと転移クリスタルを10個ずつ買っておいたけど」
「俺は転移クリスタルを20個買ったぞ?」
「ポーションだけあればいいと思って10個買いました!」
「何も買ってないよ?今でも十分あるから」
みんな準備はしてきたようだな。よし。
俺たちはもう一度準備できているかを確認してコートへ向かった。
「さ、さむ!!」
肌に刺さるような痛さ。風が物凄く冷たく、周りの景色は氷、雪が降っていて厚着をしてなかった俺たちは凍えてしまいそうになっている。
「こんなところに溶けてない水があるのか!?」
「一応暖かい場所はあるって言ってたから大丈夫だと思うけど……」
ここからは暖かくなっているような場所は見当たらない。見当たらないどころかあるなんて思えない。
「お~い!行くぞみんな!!」
1人だけ、たった1人準備をちゃんとしていた奴がいる。アイルだ。なぜあいつだけ暖かそうな羽毛の服。おかしいだろとアイルの聞くとこの場所の名前が『コート』だったから……と。
「――――」
道は険しかった。山を登り下り、凍った水面の上を通って滑ってこけて氷が割れて中の水に落ちて、と険しい道を通り抜けてとうとう。
「あれ―――か?」
ここら辺の上には雲があり雪が降っているが奥に見えたのは雲から光が入っていた。あの場所は晴れているだろう。その下にある場所は見ていなかった緑色の草、草原だ。そこに木も生えていている。
俺たちはそろそろ尽きそうな力を出して走って行く。少しずつ暖かい風を感じられるようになっていき、体が温まっていった。
「着いた!!」
湖の前で止まり、ガッツポーズをする。
「ここのどこかにジャムはいるんですよね……怖いな~」
この場所に来るまでは転移クリスタルを使うことができなかったがこの場所だと使える。万が一があったときに逃げることができるから少しは楽だと思う。
湖の周りを歩いたりたまに中を覗いていると影があるところを見つけた。光に当たっているのにそこだけ黒い。
「後ろに下がれ!!」
すぐに察した。こいつはジャムだ。うっすら人ではないが似ているものがうっすら見えた。
水が飛び跳ねるのと同時に影も出てくる。その影は地面にしっかり着地した。真っ赤な目の色、腕や足にウロコがある。
「――――」
ジャムは警戒をしているのか、こちらを見つめている。数秒間、俺を確認すると後ろにある湖の水に手を入れた。するとジャムが入れた手の周りの水の色がオレンジ色へと輝き始めていく。
「な―――!」
オレンジ色の輝きを消えるのと同時にジャムは湖から手を出す。その手には剣の形をした水を持っていた。
これがナーガか。水を剣の形に変えて戦うジャム。どれだけ斬れるのかが分からないから少し難しくなりそうかな……
「行くぞ!」
まず俺は2連続ソードスキル『リュース』を使う。オレンジ色のエフェクト光を発しながら剣が素早く2回システムモーションによって振っていく。ジャムはブロックをして、HPバーを半分削られ後ろに飛ばされたが何とか踏みとどまり、こちらに攻撃を仕掛ける。
「グルルル―――!」
ナーガを振り落としてくるがユイがブロックをして、アイルとエミが後ろに回り剣を振るった。一瞬でジャムのHPバーが吹き飛んで行った。
ジャムは白い光となって消えて行ったと思ったその時また湖からジャムが飛び出してくる。
「いや~これはきつくなりそうだな~!サクト!」
アイルは頭に手を置きながら笑みを浮かばせ、エミ、ユイは剣を握り直し戦う準備をまた始めていた。
「それじゃあ倒していこう!」
「おう!!」「はい!」「分かった!」
大きい声で返事をした後ジャムと戦った。湖には30体生息していた。それをすべて討伐することができ、前にクエストクリアの表示がされている。
「よっしゃー!!できたぜ!!」
「何はしゃいでんだよ、アイル……」
剣を振り回しながら言っているアイルにそう言うと「そんなことないよ」と言いながら剣を上に投げて鞘を手に持つ。落ちてくる剣をかっこよくジャキンと音を立てながら鞘に入れて俺に見せた。
カッコいいな……後で俺も練習しておこっと。
「みんな、帰るぞ!」
転移クリスタルを持ち、始まりの町、ジャイルに戻った。
*
「いやー疲れちゃうね」
「うるさいよぉ~。眠いんだからさぁ~」
白地の堅苦しい騎士服を着て腰元に同じ白色の鞘を付けて、左腕に丸くまた白い盾が付いている男の姿とこの男の半分くらいの身長のオレンジ色の髪をした男の子がヒルガオのリーダー室で話をしている。
「あの男はどうなんだ」
「徹夜して調べてきたよぉ~。特に変わったことないけどねぇ~アクセスされたとか、監視されたりとかされてる~もう帰っていぃ?眠たいんだけど~」
「分かった、調べてもらって助かった。あとはこちらでやっておく」
男の子は「は~い」と返事をして転移クリスタルを使って転移していった。
「それでどうなのかな。取られていることはなさそうだけど」
「大丈夫だ、このギルドにいる限り取られてしまう心配はない」
ヒルガオは椅子から立ち上がり、リーダー室にある窓で外を眺める。
「クリアされた時こそ、その時にあの男と話をしに行かなくてはいけないな」
「そうだろうね」
――――クリアされたときに――――
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