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16話 デイ
≪2501年 7月18日 46階層 地下ダンジョン アングラ≫
46階層のクエストは残り1つ。
今、目の前に見えるモンスター。46階層のクエスト最大の強さのモンスターと呼ばれている。名前は『ルーラル』。見た目は人、とは言いずらいが一応人の見た目。瞳は真っ白、手足は獣、身長は平均的な成人の男の人の身長の3倍はある。HPバーは5本。
俺たちは46層最後のクエストにトラムポッツのメンバーで挑んでいる最中。
「ギィィ!」
獣の手で俺たちを払い飛ばそうと右手を横に動かす。
「リーチ長すぎるって!」
「一旦みんな下がれ!私とデイが止める」
デイは手慣れた手つきでアイテムストレージから盾を入力してオブジェクト化。盾を構えてルーラルの右手を1人で受け止めた。それを見てすぐにヒルガオが剣先をルーラルの右手首に刺し、HPバーを1本なくす。
「今だ!全員で突撃!」
ヒルガオがみんなに向かって叫ぶとギルドメンバーは返事をして剣を振っていく。俺もギルドメンバーと同時に走り出し、右手を斬り落とそうと試みた。あまりシステムモーションに縛られないよう、ソードスキルを使わず。しかしすぐに態勢を立て直されて俺や他の奴らが吹き飛ばされた。
「サクトさん!これを!」
エミが後ろからポーションを投げる。それを剣で壊して俺のHPゲージをマックスにさせた。
「サンキュー!」
剣を少しだけ上にあげてまたルーラルに向かって走り出す。両手剣30連撃剣技『スパーク』を使うためにルーラルの視界に入らない場所まで移動し、地面を蹴って剣を振るう。システムモーションが始動し、剣が動いていく。
「――――」
1人で突っ走って剣を振っている俺の姿を見てギルドメンバーは戦うことを忘れて見ている。それもそうだ。この両手剣30連撃剣技は誰も扱えなかった、否、誰も知らない剣技であった。
「ギ、ギィィィ!」
HPバーが残り1本になったときに、行動パターンが変わった。クエストモンスターでもそこまでないこと。行動パターンが一定のHPバーの本数になったときに変わるというのはかなりの強さのモンスターしかない。
攻撃パターンが変わるモンスターか……最初は払い飛ばそうとする攻撃パターンが多かったけど今回はまさかあれだとは……
ルーラルの攻撃パターンが変わったと分かったのは、壁に彫られていた本がオブジェクトに変化して手に取ったからだ。このゲームでプレイヤーにはなかった、『魔法』。
「どう対処しろって言うんだよ!」
前に出ていたアイルが素早く後ろに引き下がる。他のメンバーもかなり怯えて逃げようとする者が現れ始めていく。ルーラルは見逃すことなく風魔法と思われるものを使い体を2つに分けられ10人が一気に死んでしまった。
「ギルドメンバーが死にすぎだ!残り30人はマズい!」
最初は100人いた。70人の死をこの1つのクエストで見てしまっている。
「ここで負けたと思うな!」
後ろから男の声、デイ。逃げ出そうとしていた者が振り向きデイを見る。デイは剣を握りしめまた口を開いた。
「相手が魔法を使ってきてしんどい?黙っとけ!俺たちは何のためにしているんだと思ってるんだよ。元の世界に帰って生活して遊んだり友達と会ったりあの普通の生活に戻るためだろ!?死にたいと思ってここに、このギルドに入ってきたのか?違うだろ、あの普通に、この中にも愛する人がいるだろ、現実世界にいるかもしれない、それかこのゲームで会った人にいるかもしれない。じゃあなおさら現実世界に戻ろうと思うだろ。ここで逃げている奴ら、愛する人がいないか?いないなら普通の、こんなモンスターに立ち向かわなくていい世界に帰るために今は戦えよ!死んだ奴らの気持ちも背負わないといけない。俺たちは、トラムポッツは。こうやって戦えない人たちはいつ戻れるのかって不安がってる。逆に俺たちに期待している。だから戦おう。そして帰ろう」
みんな何も言わなかった。デイが言い始めた時は批判の声が飛び交っていたがだんだん消えていき何も言わず素直に受け止めている。
「こう言ってるんだ。私たちが戦わなくて誰が戦う」
ヒルガオはこちらを向かずにルーラルに向かって走って行く。デイも援護をするために地面を蹴ってモンスターに立ち向かっていった。その姿を全員が見て「俺たちもやらないと」「こんなところで!」という声が出始め、ヒルガオとデイの援護を始めた。俺たちはルーラルが撃つ魔法を受け止めようと後ろにいることになった。
「剣で魔法を斬るって作戦はどうだ?」
魔法を使ったこともKSOで見たことも斬ったこともないけどな……やってみる価値は一応ある。他のゲームでも魔法を斬る動作があり、難関技とはよく言われているが。
「俺が試しにやってみるよ。風魔法はたぶん無理」
「おいおい男だろ?」
「炎魔法や水魔法は形があるだろ?火を消す感じだけど、風を斬って消す。それはさすがにキツイと思う」
あの風魔法は斬れないというか見えずにすぐやられてしまう。
「よーし行ってこい!」
「はいはい……」
俺の強さを信じているからなのか、俺に頼って後ろに引き下がる。
「ギィィィィ!!!」
ルーラルが本を上に投げる。すると本が黄色のエフェクト光に包まれ、そこから雷が落ちてきた。
「斬れないだろこれ!!」
視界は黄色のエフェクト光しかない。この黄色のエフェクト光を斬るイメージ。
深く深呼吸をし、剣を振った。ソードスキル、スパーク。視界にあったエフェクト光は消えていき、ルーラルのHPゲージがみるみる減っていく。そして、
「意外にギリギリ……だったな」
自分のHPエージは赤いラインまで減っていた。目の前にはクリア表示があり後ろから歓声と拍手。
「これは驚いた」
「俺もそう思うよ。HPバーがあと1つだったからと言っても攻撃パターンも変わっていてかなり厳しかった。けれどルーラルを1人で倒した」
「あ、ありがとう……」
全身の力が抜け、地面に大の字で倒れた。それを見たユイやエミ、アイルがこちらに走ってくる。
「大丈夫!?」
「サクト!」
「無理しすぎですよ!サクトさん!」
本当は言葉を発したかったがその力すら残っておらず。そのまま意識が消えて行った。
≪2501年 7月20日 午前8時≫
「まだ起きないんですか?」
どこからか声が聞こえてくる。エミの声だ。意識はかすかにあるが目は開かず口も動かせれない。ただ耳に入ってくる声、音が入ってくるだけ。
「さすがに遅すぎますよ!何かあったんですか?」
表情は分からないが声は震えている。
「俺にもよくわからない」
急に入ってきた声はデイ。俺の状態の確認などをしているのだろう。
「普通であれば1日も経たずに目を覚ますはず、なのに目を覚ましていない。疲れで眠っているわけではないと思っている」
「じゃあ何ですか!」
若干怒っているように感じる。俺はだんだん意識が戻り始めていく。しかしなぜか目が開かないことや口を動かせないというのは変わらないまま。
どうなってるんだ……意識は、脳は働き始めただろ。眠気は少しあるけどこれは眠っていたからだと思うしな。
「またここに来ますから。目が覚めたり何か変化があったらすぐに伝えてください!では!」
バタンとドアが閉まる音が部屋に響き渡った。
「本当にどうしたんだ」
こいつが何かしたってわけじゃないか。ちょっと疑ったんだけど。どうにか、脳信号を送って目を開くくらいは!
力を入れてどうにか開けようとした。
痛!!ちょっと待て、痛かったぞ?どうなったら痛むんだよ。
「どうにか起こす方法……全員集めるって言う手があるけど」
デイがメインメニューを開く効果音を出す。そして文字を打ち始めたのか、効果音がうるさいほど何回も出される。
……?動けるようになった。よし……
「あー!よく寝た!」
手を上にあげ大きなあくびをする。俺が起きたことにビックリしているのかデイは目を丸くした。
「夢でも見ているのか?」
「そんなわけないだろ。それより早く攻略に向かうぞ」
「攻略はほかのプレイヤーが進めているから大丈夫だ。でもまたすぐにクエストをしろと言われるだろうけれど」
あのルーラルを倒すクエストをして2日が経った今。47層のクエストを1つクリアしたらしい。47層となってきてかなりの難易度でいろいろと苦戦をしているという。
そう聞いたとき俺は少し思ったことがあった。
「今、今のプレイヤー人数は……」
デイにそう質問をすると下を向きながらデイは口を開いた。
「400人。トラムポッツのメンバーはわずか50人」
想像以上の少なさに何も言えなかった。それと同時に恐怖での震えも現れる。
「マジか……50……こんなの勝てるのか?残り55個のクエストが残っているって言うのに」
「リーダーヒルガオは何も言わないがこっちからしたら相当恐ろしい現状になっている」
デイは自分の鞘を強く握り、怒りをこのゲームに言うかのように叫び始めた。
「これはゲームだろ!なんでここで生きていかなきゃならないんだよ……すまん。お前に言っているわけじゃないんだ」
息を切らしながら頭を下げる。「いいよ!別に!」と急に頭を下げられたことに驚きながら言い、デイもうなずいた。
「それじゃあ行くか。先に出ておくぞ」
ドアを開けてデイは出て行った。俺も服を着替え鞘に入った自分の剣を持ち、デイのところへ向かった。
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