18話 許されない奴への少しの感謝

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18話 許されない奴への少しの感謝

 コンコン、コンコン。  窓を叩く音が鳴り響く。その窓の近くのソファーで寝ていた俺とアイルは飛び起き音の出ているほうを向いた。 「あの~お久しぶりです」  窓の外にいたのは女の人。剣を何十本も背負っている不審な人物。ルナだった。 「お久しぶりって……他にもいい方法あっただろ……」 「仕方ないですよ!急いでるんですから!」  そう言って窓をこじ開け、部屋に入ってソファーに座った。事情はよく教えてくれなかったがとりあえずKSOに関して情報を教えに来てくれた、という感じらしい。 「でもメールで言うって言ってたよな。直接言う必要があったのか?」 「あったから来てるんですよ?メールだと情報漏れの可能性があったので」  アイルが首をかしげているとルナがアイルにもわかるように『情報漏れ』のことを説明した。俺は説明する部分を間違えているような気がするが何も言わずにその説明を聞き、アイルがへとへとになったころにルナは話を戻した。 「それでは本題に行きますね。これを見てください」  背負っている数十本の剣から、真っ黒の剣を取り出して俺とアイルに見せる。 「これは最近見つかった剣です。この剣は49階層にいるモンスターのドロップアイテムです。そのモンスターは分かりませんが」 「……?49階層ってもう48階層のクエストはクリアしたのか?」 「はい。私が頑張ってクリアさせておきました。これでも私、トラムポッツメンバーなんですよ?」  手を腰に当て自慢気に言ってくるルナを無視し考え込む。  なぜここまで順調に進んでいるのか。このゲームを作った奴の目的は一体何なんだ。人を何も考えなしにこのゲームへ閉じ込め、この世界で死んだら現実でも死ぬ。そんなことをしてまで何かやりたいという思想があることがおかしい。 「どうしましたか?何か考え事でも?」  俺が無意識に下を向いているのに気づき顔をのぞかせる。 「ま、まあ。ちょっと恋愛に……」 「れ、恋愛ですか!?それはどういうことでしょうか!!詳しく話を!恋愛漫画とかすごく好きですからぜひ!その話を!」 「現実に戻ったらということで」  そう言って本題の話を忘れ、そのままルナと別れた。 「よいしょっと。これ」  片手にコーヒーカップを持ち、コーヒーを飲んでいるアイルが机に俺用のコーヒーを置く。 「ありがとう。飲めねえけど」 「お手製ブラックコーヒーだぜ?飲めねえってのは無しで頼むよ?」  ウィンクしてくるアイルを無視してちょっとだけ飲む。その味はなかなかでコーヒー嫌いな俺でも飲めた。仮想世界だとまた違うのかもしれないと感じた瞬間だった。 「それより、サクトは現実世界に帰ったらどうするんだ?高校生だけどすぐに普通の生活は無理だろ?」 「ああ。たぶん俺たちの本物の体は病室だと思う。まあ、勉強をしてるかもな」 「なんだそれ。俺だったら仕事を探して病室で働く」  物凄くドヤ顔で言ってくる。結構本気で言ってるようだが、たぶんこいつには無理だろう……こんなバカが病室で仕事なんて無理だ。何もかも失敗する予感しかない。 「そろそろ攻略準備をしないと」  窓から光が差し込んでくる。ルナと話しているときはまだ暗かったのに今ではもう日が昇っている。 「時間が経つのが速いなって思ってるだろ」  アイルが俺の考えていたことを当てて少しビックリしながら「そうだな」とうなずき攻略の準備を始めた。 <2501年 8月11日 49階層> 「あの~……聞いてますか~?」  ――――――――――― 「エミさんが叩いても反応がないなら私の剣を頭に……」  ―――――――――――  ユイが冗談を言っているのは気づいているが個人の考え事で聞いている暇はない。ただただ考える。 「おい……攻略だぞ~お前が一番やる気あっただろ?」  ―――――――――――  あともうちょっとで結論に…… 「本当に剣刺してもいいかな…?」  少しキレ気味になっても気にしない。あいつは刺したり鞘で、た――― 「痛ったあああああ!!!!!何するんだよ!!」 「みんなを無視するからいけないんだよ?まだ鞘に入れたままだったからよかったものの……」 「おりゃ」  俺はユイの頭へお返しのチョップ。それがかなり効いたのか目つきが変わる……変わりすぎた。 「あの~?ユイさん……その~ご、ごめんって!」  殺意の目へと変わったユイの右手には鞘からしっかり抜いた鋼の剣。銀色の剣に太陽の光が反射してまぶしい。  なかなかいい剣買ってるんだな……俺のは銀色じゃないからたまにこういう剣も見るのも気分転換的な感じで~…… 「ってあぶね~!!あと数ミリ体が横にあれば肩そぎ落とされてたぞ!?」 「自業自得……自業自得……自業自得」  ぶつぶつと言いながらユイは剣を持って近づいてくる。 「怖い怖いって!」 「自業自得……自業自得……自業自得」 「や……やめ………ろ」  どんどん迫ってくるユイ、もう殺意と言うレベルではないほど怖い。  すぐに逃げようとした瞬間ユイは我に返り、目をぱちぱちさせている。 「何をしてたのかな……剣を持って……」 「お前、俺を殺そうとしたの覚えてないのかよ……ま、いっか。攻略行くぞ。ゴールがやっと見えてきたんだ。一刻も早くこの世界をクリアさせて現実に戻る」 「そうだね」「頑張りましょう!」「いけるだろ、この感じだったら」  みんながそう言って先に攻略の場所へ向かって行った。  この世界を作って何がしたいのか、したかったのか。知ったもんじゃない。許されるものではない。けど。この世界のおかげで、初心者と店やってるやつと副団長のやつ、と会えた。全く感謝をする気はなかったが、今、この時だけは感謝してもいいかなって思う。 「おいていきますよ~?」「そうだぜ?」「早くしてよ!!」 「分かったよ!」  最終決戦でもないのに何考えてんだろ。よし。  そう思ってみんなのところに走って行った。
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