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2話 地獄の始まり
商店街には主に宿屋、武器屋、装備店、雑貨店の4つ。
宿屋は場所によって異なるが硬貨3枚で1泊できる。武器屋は剣が売っている場所。装備店は防具、盾が売っている。雑貨店はアイテムを売っていて、回復アイテム、一時的能力増加アイテムが多く売っている場所で、アイテムの売却もできる。
俺は雑貨店に向かった。いろんな雑貨店があったが、隠れ家のような本当に地味な場所、『ギース』に寄る。
ドアを開け、中に入ると下は木畳、3人入るのがやっとの広さ。カウンターがあり、その奥でアイテムを入れている女の人の姿。
「すみませーん」
「はーい」
そう返事をしてこっちに向かってくる。長い黒髪で見た感じ20代前半の美少女。
「ようこそギースへ!こんな狭い場所にお越ししていただきありがとうございます!何の要件でしょう」
まだ始めたばかりなのか物凄い張り切っていて目をキラキラと光らせている。まず回復アイテムを見せてくれと言うとアイテムリストを表示させてそれを横にスクロールし俺のほうに見せた。アイテムリストはアイテムストレージなどにある所持しているアイテムをメニューとして表示させる機能のことを言う。
「こちらが商品となります!最近始めたばかりなので数は少ないですが良いものを用意していますよ!」
表示されていたのは、どれだけ多いHPでも半分回復することができるポーション、『治癒ポーション』と攻撃力を10分間増加する効果のあるクリスタル、『パワーアップクリスタル』、素早さを10分間上昇する効果のあるクリスタル、『スピードアップクリスタル』、この3つだけ。
少ないもんだな……でも効果はなかなか良いから……
「それぞれの値段は?」
忘れていたという表情をして慌てて確認し始める。
「えーっと……あ!!治癒ポーションが金貨2枚、他の2つのクリスタルは3枚です!!どうですか?」
こちらをじっと見つめてくる。
どうしようかな。治癒ポーションと逃げる時用のスピードアップクリスタルでいいかな……金がかなり減るけど。
「それじゃあ治癒ポーション3つとスピードアップクリスタルを1つくれるか?」
前の顔よりもすごく明るい笑顔に変わり、はいと返事をして、店の奥にあるアイテムをカウンターに持ってきた。そのアイテムをアイテムストレージに入れ、金貨を9枚出す。
「はい、金貨9枚」
「ありがとうございました!!!また来てください!」
笑顔で見送られながらドアを開けた。その後ドアを閉めようとしたらあの人が。
「ちょっと待ってください!!!」
息を切らしながら慌てて俺を呼び止める。
「お名前……だけ……いいですか……?初めての……購入者……なので……!」
「別に……良いけど、俺の名前はサクト、ついでに君は?」
「私の名前はエミです!!突然呼び止めてすみません!」
俺は大丈夫だと言ってこの店から出た。
一旦アイテムはこれでいいかな。剣は……金がないからモンスターを狩って集めよう。ここら辺は……どこなんだろう。いろいろ歩いた後マップで確認するか……
表示できる場所を増やすため、散歩をすることにした。歩いていく中でいろんな人を見かける。鍛冶スキルを習得していなければ持てないハンマーをもった男。少し広がったまた違う広大な石畳の広場でデュエルマッチをしている人などいる。デュエルマッチというのはお互い賭けるものを言って、勝った人は自分が賭けたものと相手が賭けたものをすべてもらうことのできる機能。キャラクターを賭けることだって可能。つまり命って感じ。今デュエルマッチをしている人が豪華らしく、俺は観戦していくことにした。
「今回デュエルマッチをする人は!VRMMOをこよなく愛し、いろんなゲームをなんなくと最速クリアしていく最強騎士が今回KSOにコンバースしたぞ!!!その名は~……コニア!!!」
コンバースというのは限られているが他のVRMMORPGのゲームのキャラクター、武器、装備などを移行することができる機能のこと。
広場の隅で今回の司会のような人が大声で言う。周りにいる人たちが「うぉ~!!」と言いながら拍手をする。人ごみをかき分けて出てきたのは白地の堅苦しい騎士服を着て腰元に同じ白色の鞘を付けて、左腕に丸くまた白い盾が付いている男の姿。堂々と現れてくる姿は余裕そうだった。
こいつがコニア……最強騎士。やけに白い騎士だな。汚れたら目立つよな~白。
つまらないことを考えているとまた司会の人が言い始める。
「続きまして~~~!!!あの最強騎士に立ち向かう新人騎士!!クリエ!!」
そう言うと周りの人がざわつき始めた。そりゃあ不思議に思うだろう。最強騎士と呼ばれている人に立ち向かおうとしているのだから。
人ごみをかき分けて出てきたのは騎士の初期装備で、コニアと同じく白い騎士服だが堅苦しくなく剣を突き刺すとすぐに貫けそうなほどの柔らかい感じの騎士服。腰元に緑色の鞘の男。
「白と緑っておかしすぎだろ!!!」
「そうよ!……あんな剣だしどうせ弱いんでしょ」
周りがどんどんざわついていく。
いや……周りの人が言っている通り。緑と白のチョイスはちょっと……俺は引く。
クリエは何も反応せず鞘から剣を抜く。コニアもそれに続けて鞘から剣を抜いた。デュエルマッチの設定画面で司会の人が設定操作をして、始まるまでの秒数と【HPゲージ1/3まで削る】と上に表示した。
【HPゲージ1/3まで削る】というのは勝利条件。他にも4種類あり合計5種類、勝利条件がある。HPゲージは半分になると黄色に、1/3になると赤になり警告音が鳴る。警告音は自分自身しか聞くことができない。
「それではあと30秒で始まりますよ!!賭けるものは、コニアが金貨50枚。クリエが自分が所持している剣だそうです!!」
すると人ごみの中にいる1人の男が声をあげる。
「おいおい!!割に合わねえだろ!!」
他の人もそうだそうだ!と言い始め、クリエは下を向く。
これはいくら何でもひどいだろ……新人騎士だからそこまで良いものはないはずだし、コニアが承諾しているなら別にいいと思うんだけど。
残り10秒。何を言われても何も言い返さずただ下を向くクリエ。それを見ていたコニアが言う。
「まあまあ。このデュエルマッチは僕も同意の上でやっているから許してあげて?でも負けることは絶対ないから。剣は僕、アイテムストレージにたくさんあるからあとであげるね!」
みんなに手を振りながらそう言った。
「やっぱりコニアさんは良い人だね。クリエも見習ったほうがいいんじゃないのかな~」
あえて聞こえるように大きな声で言う女。俺は少しイラついたがその怒りを抑えつつデュエルマッチが始まるのを待つ。
くそ野郎ばかりだ。もしあいつが負けたとしてもあの剣は俺がもらっておこう。いや、地味に剣もらえたらなって思っている自分がいるんだけど!
残り1秒になった瞬間、司会の人が手を上にあげた、そして。
「それでは!!デュエルスタート!!!」
手を勢いよく振り下げるとデュエルマッチの始まりの合図のブザーが鳴った。その瞬間クリエが地面を蹴り上げ前に進む。そのスピードはとてつもなく速い。
ゲームにはエフェクトがある、蹴り上げた瞬間に火花のようなエフェクトが出る。普通の人は少し見える程度だが、クリエの場合はとてつもなく多い量の火花。飛ぶように進んだクリエは横から剣を振りかぶる。すると赤色のエフェクト光が発されコニアの腕を斬ろうとする。このソードスキル名は『シュートクル』。まだKSOのサービスが開始されてまだ1時間経ったほどだが最速のソードスキルと呼ばれている直線斬り。
新人……VRMMOをするのが今回初めて……だよな。いったい何者だ……?
そのソードスキルをすぐに見切ったコニアはクリエの剣を横に受け流して顔に傷をつけた。顔に赤いエフェクトがされる。
「さすがコニア!!いけ~!!」
クリエのHPゲージは半分ほど。あの傷だけであのダメージ量か……あの武器はかなりグレードアップさせた武器だろうな。他のVRMMORPGゲームで。ATKの数値どうなってるんだろう……
そう思っている間にも剣と剣が当たっているギーンという音が響き渡っていく。クリエはなかなかコニアにダメージを与えれずHPゲージはほとんどマックス。クリエのほうはあともう少しでHPゲージが1/3。
「君とデュエルマッチをするの楽しいよ。またやろうね?」
コニアがクリエにそう話しかけた後、後ろから振りかぶった白い剣がオレンジ色にエフェクト光を発しながらクリエの剣めがけて撃ちだされた。このソードスキルは『ギルガル』。武器を破壊するときに使われるソードスキル。
「甘い」
クリエはそう言い一瞬で剣を避けた。ゲームで出せるスピードの限界をはるかに超えている。するとユーザー全員の目の前に時計が勝手に表示された。時計の針が反対側に回りだし11時59分になる。
「もういい。最強がこの程度なのが残念だ」
声がエリア中に響き渡り、クリエは宙に浮く。ユーザー全員がクリエの姿を見て驚いていた。
「魔法なのか!?あの早期購入特典の!」
いや、そんなはずはない……とは言い切れない。まだ魔法は何が使えるかの確認をしていないからな。モンスターを狩っている最中にしようと思ってたものだし。
「違う。これは管理者権限特別使用空間移動(アトミスギャリアックエアムーブメント)。つまりこのゲームを作った者のみが使えるものってわけだ」
作った者……?どういうことだ……このKSOを作った奴がクリエだというのか!?
「私の名は託。今はそれしか名乗らないでおこう。名乗っても知らないかも知らないからな」
託。何がしたいんだ……こいつは何がしたい。
「これから君たちにゲームをしてほしい。現実世界を救うゲームを」
――――こいつ……何を……現実……世界………?
「私は現実世界の東京。そこの下。つまり地下に巨大ロボットを準備した。このKSOをクリアし、グランソードを手にしてある指定の場所に突き刺せば君たちはゲームクリア。現実世界は破壊されない。しかしKSOに人が0になればゲームオーバー。現実世界は終わりだ」
ユーザーたちは周りをきょろきょろ見て半信半疑で黙って聞いている。
「君たちには良いニュースと悪いニュースをしてあげよう。まず良いニュースだ。クエストは個人やパーティーメンバーがクリアしたからと言って全体がクリア判定にされることはない。しかし私がそれを変えてクリア判定をONにしておいた」
つまり誰か1人でも1つのクエストをクリアすると全員誰もがクリアしたとなるってわけか……
「良いニュースはこの1つのみだ。続いて悪いニュース」
「おかしいだろ!?」という声がそこらじゅうで言っている。中学生の女の子が泣いている姿も見えた。
中学生もいるのにこんなことに巻き込ませるなよ……馬鹿かあいつ……でもログアウトしたら別に問題はないはず。
俺はメインメニュー表示用のモーションをし、メインメニューをスクロールしログアウトボタンを押そうとした。その時俺は何かの電撃に撃たれ弾き飛ばされる。
「イテテ……ログアウトボタン……どうなってるんだ……!?」
託が話を始めた。
「ログアウトボタンを押すと電撃に撃たれHPが1/3削られる。なのでログアウトは諦めることだ」
それが本当なのかと思いHPゲージを確認すると1/3減っている。他の人も試しているが一緒の結果。
「次。ゲーム中に死んだ場合。君たちの魂を永遠の闇に閉じ込めておく」
魂……このゲームは魂を移行したりしていないはず……どうして、そんなことが起きたら……もう本当の死じゃないか!!
「本当の死ではない。生きてはいる。ただ辛い日々を永遠に過ごすだけだ。あと、魔法の使用は禁止にし、クエストの難易度を大幅に増加させた。すべてボス攻略の内容となる」
全員が絶望に落とされていく。俺もだ。何もかもが消える感覚。
どうしよう……どうしよう……どうしよう――――
宙に浮いていたクリエはより高く浮く。
「さあ!!ゲームの始まりだ!!!!」
クリエの姿が消え、響き渡っていた声が消えた。みんなきょろきょろみて動揺、絶望、様々な感情エフェクトが出ていることがすぐに分かる。
「早く現実に……現実に……帰らないと……」
俺は案内所を目指し、誰よりも速く走り始めた。
――――速く、速く帰らないと――――
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