3話 初心者

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3話 初心者

「はぁ、はぁ………」  息を切らしながらも俺は案内所に着くことができた。案内所は石で造られた簡易的な建物。ドアは無く、中に入るとクエストの内容が空中上に表示されている。俺はざっと目を通してみた。 ≪ボス攻略クエスト≫  1、・LEVEL1ボス。キルラル。 《PLAY》  2、・LEVEL2ボス。ウォール。 《PLAY》  3、・LEVEL3ボス。ミース。 《PLAY》  4、・LEVEL4ボス。ミキラクイ。 《PLAY》  5、・LEVEL5ボス。ヴォルフスブルク。 《PLAY》  6、・LEVEL6ボス。グジャラ。 《PLAY》  7、・LEVEL7ボス。クイックワイプ 《PLAY》  ―――――――――――――――――  PLAYと書かれたボタンがあり、LEVEL1のクエストのボタンを押そうとしたが一旦手を止めて他のクエストを見た。  7つのクエスト見たところで見るのをやめ、入り口の方向を向く。他の人も入ってきたからだ。入ってきたのはさっきクリエと戦っていたコニアが入ってくる。 「やあ。君もクエストを見に来たのかな?」  笑顔でそう言われる。俺は「ああそうだ」と答えた後またクエストの内容を見始めた。 「ちょっと。……まあいいや。あのさ、君、僕のパーティーにならない?」  何を言ってるんだこいつは……確かにVRMMORPGをやり続けた最強の騎士と呼ばれている奴と一緒に戦ったら優位に進められるだろう。けれど、それで俺が何か言われた時が嫌だからな。 「やめておくよ」  俺は逃げるように案内所を出た。コニアは何も言わず俺が出ていく姿をじっと見ている。外に出ると目的もなしにただ歩いている人やまだあのことが信じ切れていなく、頭を抱えてしゃがみ込んでいる人、いろんな人がいる。  まだ俺は信じてない。現実を救うゲームなんて。でも、ログアウトできない以上、クリアをするしかない。クエストのクリアは全員共有だから少しは……  KSOのプレイヤー数は1万人。ベータテスト用で持っていたものをそのまま使っている人と俺と同じように店に行き、買った人を合わせて1万人。ベータテスト用のソフトは1000名限定。KSOは日本限定でう荒れ始めて俺はギリギリで買った。用意された数は9000名限定。  1万人の中で最強だったコニアだが、託はあれだけの強さじゃ駄目と言っていた。コニアのレベルは1レベル。武器や経験が積まれているだけ。俺も同じくレベル1。 「強くならないと……そして現実世界に帰る。救うとかヒーローっぽいことは考えない。ただこんなゲームはすぐ終わらせる、その気持ちでKSOをする」  俺はモンスターを狩れる場所をいろんな人に聞いて回った。この始まりの町、ジャイルの周りを囲むように石の壁があり、その北側に町を出る門がある。そこから出るとモンスターが湧く草原があるらしい。草原の名はミルキート。聞いた人にお礼をし、すぐにそこへ向かう。  頭の中にはただ帰りたいという気持ちだけが残る。他が何も考えれない。ただただ強く。強く……と……  北の門を出てミルキート草原に着く。腰元にある剣を鞘から取り出す。奥にモンスターが湧いた。そのモンスターはホークリ。犬サイズの馬モンスター。茶色がほとんど。 「おらぁぁぁぁ!!!」  ソードスキル、『ウェイト』。直線斬りのソードスキルを使いホークリに剣を突き刺す。するとホークリの緑色のHPゲージがなくなる。そしてホークリの体は白い光へと変わり消えて行った。死亡エフェクトだ。目の前に青色のフォントで加算された経験値数値が表示された。俺はソードスキルをほとんど知っている。使い方も。なぜかというと案内所にソードスキルが全種類書かれた本があり、それを目に通して覚えたからだ。 「くそ、こんなゲーム。あいつがくそなのか!なんで……なんで!!!」  草原を駆け出していく。湧いてくるホークリをどんどん斬って行った。何考えず、ただただモンスターを斬って、斬って、斬って――――  どんどん経験値が加算されていき、レベル25になった。大体RPGゲームは最初のほうはレベルが上がりやすいようにされているがこのKSOは違う。かなりモンスターを倒し経験値を加算しなければいけない。ホークリの場合はレベル25になるまで400体は狩らなければいけないほど。 「はぁ……おら!!おらぁー!!!」  剣を振り、モンスターを次々倒していく。 「おい~!!何やってんだ~?」  後ろからだれか男の声が聞こえる。俺は声がするほうを振り向くと青い短髪。20代後半の男の姿。その男は笑顔で手を振っていた。そして走ってこちらに向かって来る。 「誰だ?お前」  腰元に初期武器のアインソードも付けず鞘も無い。たぶん初心者だろう。 「俺の名前はアイルだ!よろしくな!!」 「ああ……お、俺の名前はサクトだ」  俺はアイルと握手をしながら本当に初心者なのかを確認する。何度確認しても鞘が無く剣を持っていない。隠し持っているわけでも……ない。 「あのさ。ちょっといいかな……失礼かもだけど、アイルは初心者か?」  アイルは頭に手を置く。 「いや~そうなんだよ。でさ、モンスターを試しに狩ろうとここに来たんだけどさ~、無理で死にそうになったよ~あははは……」  よく今の状況で死ぬかと思ったって笑顔で言えるな……この死んだら本当の死になるっていうのに……こいつ、すごいな。 「ん!?まさか素手でか!?」  アイルは小さくうなずく。  あ~こいつ馬鹿だ……まあでも初心者がしそうなことだな。VRMMORPGの初心者って感じかな。 「まず剣を持つ。剣がないとこの世界で生きていけないぞ?」 「剣は買わないといけなかったからないんだよ!!!金貨はアイテムで使い切っちゃってさ!」  そう言ってポーションとクリスタルを手に持った。これだ!と言った後、ズボンのポケットに無理やり入れる。  こ、こいつ……アイテムの入れ方まで知らないのか!?え……本当に1から教えなきゃいけない……はぁ。  ため息をつきながらアイルの肩に手を置く。 「あのさ。俺がいろいろ教えてやるからいいか?」  するとアイルの表情が物凄く明るくなり、ああ!と言ってうなずいた。 「まずはメインメニューの開き方。もし普通にログアウト出来たらお前だけ帰れなかったんだぞ?」  え!?と驚いた表情を浮かべる。それもそうだ。1人だけ帰ってこないっていう事件が起きてしまうから。 「まずモーション。動きだ。人差し指を空気中で横にスライドするんだ」  俺が言いながら操作する。アイルもそれをまねして指を横にスライドした。するとアインの目の前にメインメニューが表示された。 「うおっ!!これ、これか!?」  メインメニューが表示されたくらいで驚くなよ………面白いやつだな。 「それを下にスクロールしてアイテムストレージって表示されている部分を押す」 「こうか?」  アイテムストレージのボタンを押して俺に問いかける。俺は返事をして説明を続けた。 「それを開いた状態のままポーションを押してみてくれ」  アイルはポーションを押すと白い光に変わり消える。アイテムストレージのほうを確認すると治癒ポーションと表示された。アイテムを入れたんだ。 「それで完了。アイテムストレージの中にアインソードが入っているからそれを押してオブジェクト化してみるんだ」 「ほうほう……うわ!!剣が出てきた!」  急に目の前に剣が出てきて驚きながら剣を取ろうとする。しかしうまく取れず剣が手のひらに刺さった。 「ぎゃぁぁぁ!!!!!!痛いよ~!!!」  HPゲージが減るだけでKSOは痛覚がない。そのはずなのにアイルは暴れまわっている。 「おい、KSOをする時に付けたときヴァジスによって痛覚を遮断している。だからノックバックとかするくらいで痛みはないはずなんだが……」 「本当だ……悪いな~……騒いでしまって……」 「別にいいよ。それより次。奥にホークリが湧いているから倒してみよう」  俺とアイルはホークリのところに歩いていく。腰元にある鞘から剣を取り出して構えた。アイルもそれをまねして剣を構える。 「行くぞ、これもモーションが必要になる。特定のな?まず初級の……『クレイ』で行こう。弧に描きながら斬るソードスキル。剣技って言ってもいいけど」 「ほ~ソードスキル!なんかカッコいいな!で?やり方はどうするんだ?」  一旦剣を構えるのをやめて、構え方を変える。俺が剣を右肩に持ち上げた瞬間、剣が赤色にエフェクト光を発した。これはシステムで決められた動きにするよ、という合図みたいなものだ。うまくできなければオレンジ色、黄色の順に成功率は下がっていく。赤色は何か横切ったりしないかぎりほとんどの確率で命中するという合図。 「はっ!!!」  地面を蹴り上げ、前に進む。ギュイーンと効果音が響き渡りながら剣がシステム通りに弧を描き、ホークリに命中。HPゲージが吹き飛んでいった。 「こんな感じだ!お前ならできる……はず!!」  一瞬できるかどうか不安になったができると信じて言う。アイルは返事をしてさっき俺がやったように剣を構える。 「おりゃっ!!」  掛け声を出しながら剣を振った。地面を蹴り上げると剣が黄色のエフェクト光が輝く。効果音が響き渡り剣が弧を描きホークリにめがけて振り落とされた。しかし当たることはなくそのままホークリを通り過ぎた。 「あ、あれ~!?なんでだよ~……う、うわぁ!!」  システムのモーションが終わる前に態勢を崩してしまい地面に尻もちをついた。 「ちゃっと最後まで態勢を崩さないようにしろよ!?ボス攻略の時になったらそれが隙となって攻撃されてHPが削れたり最悪の場合は死ぬ。気をつけてくれ……」 「はい!先生!!」  返事をしてまた剣を構える。  先生はやめてほしいんだけど……こいつといたらなんかいろんなことを忘れさせてくれるな~……本当に。 「おりゃぁー!!!」  今回のエフェクト光はオレンジ色。システムのモーションでホークリに少しかすった。HPゲージが1/3減り、アイルはガッツポーズをする。 「やった~!!当たったぞ!!!」 「喜ぶのが速すぎる……まだ倒していないから倒せよ?」 「おう!!おりゃ!!」  次は速かった。地面を蹴り上げた瞬間、剣は赤色のエフェクト光を発してホークリを刺した。HPゲージがなくなり白い光になり消えた。 「うまいうまい!!いいじゃないか!」 「そ、そうか?」  急にアイルが照れた表情になる。  感情エフェクトはすぐに出るからよくわかるな~……まあでもいいや。 「アイルはこれからどうするんだ?」 「そりゃあの託っていうやつが言っていたゲームをクリアする!現実世界を救うんだ!!」  なんのためらいもなく悩むこともなく即答した。  現実世界を救う……か。俺はただただ帰りたいだけ、もしかしたら俺とアイルの相性悪そうだな…… 「そうか、頑張れよ」  俺はジャイルに戻ろうとした。その時アイルが俺の肩に手を置く。 「まあ、ちょっと待ってくれ。フレンド登録ってやつだけでもしておかないねえか?」 「―――――」  その場で黙り込む。アイルは何も言わず話を続けた。 「頼む。お前にはいずれ恩を返す。だからさ!な?」 「―――分かった」  メインメニューが表示してメールを開く。メールの設定の中に【フレンド登録】と表示されたものと【フレンドリスト】の2つがあった。俺は【フレンド登録】のボタンを押し、【目の前のプレイヤーにフレンド申請】というところを押す。するとアイルのほうに【フレンド申請が届きました。承認しますか?】と文字が表示され【Yes/No】の選択画面が表示された。 「これでイェスを押せばいいのか?」 「ああ。間違えてノーを押したら3日経たないとフレンドになれないからな?」  アイルは慎重に指をYesのほうを押し、一息ついて地面に座った。 「何かあったらメッセージ送れよ?」 「おう!!!俺はまだモンスターを狩っているから行っていいぞ!じゃあな」  アイルに見送られながら俺はジャイルへ向かって歩いて行く。 「馬鹿な奴……本当におかしいな……ふっ……」  僅かに笑みを浮かべながら歩いた。
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