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白い羊のフリをして
大人でも子供でも、同じように発生する問題というヤツがある。
人間が人間である以上、避けようがないのかもしれない。それぞれ個性があって、意思があって、そういうものがバラバラでぶつかり合う以上喧嘩になる時があるのも当然と言えば当然だ。誰だって自分の個を優先したいし、それでいて孤立などしたくない。特に日本人は、“協調性”というやつがやたらめったら要求されるのだと、僕の父さんはぼやいていたことがある。どれだけ頭が良かろうが運動ができようが、コミュニケーション能力が低い奴はどこに行っても雇って貰えないのだそうだ。
正直それを聞いてしまって、僕はべっこりヘコんだものである。
まだ僕は小学生だから、社会人というものになるのは遠い未来のことであるはずだけど(一人っ子の普通の家なので、大学まで普通に行かせて貰えそうだというのもある。中学から私立に行くつもりがないから尚更だ)、それでも想像したら怖くなってしまう。
空気を読む、というのはいつもどうすればいいかわからない。
出来ることがあるとすれば、ただ一つ。その空間の“支配者”に逆らわないように、目立たないようにすることだ。
学校にもそういう存在はいる。会社ではそういう奴を上司、と呼んだりするのだろうか。
例えば先生。
例えば――クラスで一番強い、リーダー的ポジションの奴。
「おい、今なんつった?」
ああ、まただ。僕はびくびくと震えながらも、教室の後ろへと視線を向けてしまう。
クラスの男の子の一人が、別の男の子達に取り囲まれていた。今怒鳴ったのは、クラスで一番体が大きな男の子、ユージだ。ユージは中学生と間違われるくらい体が大きくて、喧嘩が強い。そのせいか、ユージを恐れて彼の周囲には取り巻きがたくさんいるのだ。まるでヤクザの舎弟みたいだ、なんて言っていたのは誰だっただろうか。そのユージとユージの仲間に取り囲まれてしまっているのは、哀れな“黒い羊”である。
そう、僕達はこっそり、いじめられるその子を“黒い羊”と呼んでいる。少し前に流行した歌がそのモチーフだった。白い羊ばっかりの群れに、黒い羊が一匹だけいたら綺麗じゃない。何より目立つ。だから、白い羊の親玉が黒い羊を嫌って、追い出そうと躍起になるのである。
このクラスでも、まさにそんなことが起きていた。白い羊の中の、一番強い少年が、自分が“黒い羊”だと思った少年をいじめているのである。
そのきっかけはきっと些細なことだろう。いじめられている黒い羊君は、名前をリンタという。彼は、日本人であるはずなのに髪の毛がちょっとだけ茶色いのだ。別に、珍しいというほどのことではない。彼は髪の毛だけが茶色いだけで、目の色や肌の色は他の日本人となんら変わらないものだ。色素が薄いんだな、きっと――と普通ならそう考えて流せるところ、どうしてもそれが気に食わなかった奴らがいたのである。
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