150人が本棚に入れています
本棚に追加
独りむなしく、線香花火を垂らす。
小さな火種が次第にふくらみ、オレンジ色の楕円を作る。
けれどすぐに、無情にも生暖かい風が吹き、あっけなく地面に落ちた。
先輩の恋も、自分の恋も、この線香花火みたいにあっという間に消え去った。
輝いていたのは一瞬だけ。
ひと夏の恋と同じで、短く、儚く消えた。
二本目の線香花火に火をつける。
風がやみ、今度は少しうまくいった。
パチパチとはじける小さな火の塊が、涙みたいにポトリと落ちる寸前──
「島崎君。まだここにいたんだね」
「……先輩?」
何で戻ってきたんだ。
まさか、彼氏とよりを戻せたことの報告?
「あのね。私、彼氏のこと振ってきたわ」
「──は?」
「なんだかね。言い訳ばっかりの情けない姿見せられて、吹っ切れたんだー。ほんと、男運ないなあ私」
あっけらかんと笑う先輩を、信じられない思いで見上げる。
「……先輩もやります? 線香花火」
「うん、やる」
先輩と一緒に、二人並んで線香花火を垂らす。一人より全然楽しい。
「思い出した。線香花火ってコツがあって。斜め45度になるように持つと長持ちするんだって」
そう教えてくれる綺麗な横顔を眺め、ふとつぶやく。
「……それなら大丈夫ですね」
「え? 何が?」
「先輩の恋も、いい方法が見つかれば、次は長続きするかもってことです。だから、あんまり落ち込まないでくださいね」
「……ありがと、島崎君」
残り少ない光をこぼす線香花火を見つめ、仁奈先輩は切なく微笑んだ。
「ねえ。このあと、ご飯付き合ってよ」
「いいですよ。何が食べたい気分ですか?」
「熱々のお好み焼きと焼きそば!」
「えー、この暑い中?」
「デザートにかき氷食べれば大丈夫~」
「はあ、そうですね」
「ご飯食べたら花火の続きもしよう? ひとつくらい、楽しい思い出を作っておきたいから」
こんな自分に運が回ってきたのかどうかは、まだわからない。
だけど先輩の負った傷を少しでも癒せたら。
そう思って、先輩にそっと手を差し伸べた。
自分なら、ひと夏の思い出にはしない。
ずっと大事にする自信がある。
まずは先輩に楽しい思い出を作って。
自分の気持ちを伝えるのは、それからでいい。
[end]
最初のコメントを投稿しよう!