線香花火、ひと夏の恋

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独りむなしく、線香花火を垂らす。 小さな火種が次第にふくらみ、オレンジ色の楕円を作る。 けれどすぐに、無情にも生暖かい風が吹き、あっけなく地面に落ちた。 先輩の恋も、自分の恋も、この線香花火みたいにあっという間に消え去った。 輝いていたのは一瞬だけ。 ひと夏の恋と同じで、短く、儚く消えた。 二本目の線香花火に火をつける。 風がやみ、今度は少しうまくいった。 パチパチとはじける小さな火の塊が、涙みたいにポトリと落ちる寸前── 「島崎君。まだここにいたんだね」 「……先輩?」 何で戻ってきたんだ。 まさか、彼氏とよりを戻せたことの報告? 「あのね。私、彼氏のこと振ってきたわ」 「──は?」 「なんだかね。言い訳ばっかりの情けない姿見せられて、吹っ切れたんだー。ほんと、男運ないなあ私」 あっけらかんと笑う先輩を、信じられない思いで見上げる。 「……先輩もやります? 線香花火」 「うん、やる」 先輩と一緒に、二人並んで線香花火を垂らす。一人より全然楽しい。 「思い出した。線香花火ってコツがあって。斜め45度になるように持つと長持ちするんだって」 そう教えてくれる綺麗な横顔を眺め、ふとつぶやく。 「……それなら大丈夫ですね」 「え? 何が?」 「先輩の恋も、いい方法が見つかれば、次は長続きするかもってことです。だから、あんまり落ち込まないでくださいね」 「……ありがと、島崎君」 残り少ない光をこぼす線香花火を見つめ、仁奈先輩は切なく微笑んだ。 「ねえ。このあと、ご飯付き合ってよ」 「いいですよ。何が食べたい気分ですか?」 「熱々のお好み焼きと焼きそば!」 「えー、この暑い中?」 「デザートにかき氷食べれば大丈夫~」 「はあ、そうですね」 「ご飯食べたら花火の続きもしよう? ひとつくらい、楽しい思い出を作っておきたいから」 こんな自分に運が回ってきたのかどうかは、まだわからない。 だけど先輩の負った傷を少しでも癒せたら。 そう思って、先輩にそっと手を差し伸べた。 自分なら、ひと夏の思い出にはしない。 ずっと大事にする自信がある。 まずは先輩に楽しい思い出を作って。 自分の気持ちを伝えるのは、それからでいい。 [end]
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