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「私ね、彼氏に浮気された」
近所の空き地で星空を見上げ、仁奈先輩は言った。
先輩には、つい最近できた彼氏がいて。
あまり上手くいっていないという。
だから気晴らしに花火をしようと誘ったのだけど。
結局、出てくる話題は彼氏のことばかり。
「もともと向こうは、ひと夏の思い出にってことで、軽い気持ちで付き合ってただけみたい」
「そうなんですか。男運ないですね先輩」
「はは、確かにそうかも。夏の恋は短いって言うしね」
切なく笑った先輩は地面を見下ろした。
いつもは元気な先輩も、今はかよわく見えてしまう。
「……痛っ、笑ったら唇切れた」
「え、見せてください」
たまたま持っていたティッシュを出し、赤い唇をそっと押さえる。
柔らかな弾力に、心臓が跳ねた。
「先輩。無理して笑わないでくださいね」
「……うん」
「男なんて、いくらでもいますから。……俺とか」
最後に付け足した言葉は聞こえたのかどうか。
突然、スマホをポケットから取り出した先輩は、急いで画面を確認した。
「ごめん。彼氏に呼ばれたから、ちょっと行ってくるね」
「……はい。健闘を祈ります」
心の内とは反対の言葉をかけ、先輩の後ろ姿から目をそらした。
やっぱり運がないのは自分の方だ。
先輩は少なくとも、誰かに愛されている。
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