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その時遠くの入り口が開く音が聞こえた。この舎人と呼ばれている豚小屋のような建物は、中に入っているのが豚ではなくデブという違いこそあるが、まさにデブ小屋だ。
二メートル四方に区切られた区画に、間隔を開けて一人ずつデブが十人程度入れられている。
一人の男が入ってきた。
「おはよう」
そう言うのは吉田というここの舎長だ。抜け毛感が凄まじく、いたるところの頭皮が透けたザ・おじさん然とした男。
五〇歳を過ぎた体は以前よりは細くなったと言っていたが、ここで稼いだお金で肥えた腹は親カエルのように出っ張っている。
カーキの作業着を着た吉田は二人の傍まで近づいてきた。
「カスミちゃんおはよう」
吉田は檻の中に向かって声をかけた。
「おはようございます」
「今日の体調はどうだい」
「おかげさまで今日も元気です」
「そうか、それはよかった」
デブはゆっくりとした動作で四つん這いの状態になった。もっとも、四つん這いになろうが座っていようが、びろびろに伸びた皮膚がスライムのように広がって重力に引っ張られ、どんな体勢をとっているのか判然としない。頭と思われるところの位置と顔の向きで判別するしかない。
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