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いつまでも部室に入り浸っている俺と予備校のコマ数を増やした春菜は、物理的にも精神的にも遠い距離になってしまった気がする。だけど、俺のわがままで、春菜の足を引っ張りたくなんかなかった。俺からは会いたいとはなかなか言えず、やっと春菜からデートの誘いが来たのが、今日だった。
結局、会いたい気持ちだけが募って、家を飛び出していた。コンビニに駆け込んで、フルーツゼリーをふたつだけ持ってレジに並ぶ。葡萄とオレンジ。葡萄は春菜の分で、オレンジが俺の分だ。熱があるときはゼリーだ。俺の特効薬。冷たくて甘いゼリーは、食欲がなくても喉を通る。何より、小さい頃はそういうときくらいしか甘いものを食べさせてもらえなかったから、俺にとってこれは特別なものだった。
朝から迷惑だろうと思いながらも、春菜の家へと向かう足は止まらなかった。チャイムを鳴らして俺を出迎えたのは、春菜の母親だった。前にも何度か会ったことがあったけど、俺の髪型とかピアスとか、そういうのが嫌いなんだんだろうなってのは表情でわかった。今日も不愉快そうに顔を顰めながら、春菜の部屋に通された。
「春菜、調子どう?」
「フユト……熱がちょっとあるかな」
「やっぱり熱か。大丈夫?」
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