セツナラセン ~金木犀の涙~

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 春菜のおでこに触れようとしたその左手は、途中で進路を変えて空を切る。微かに感じる痛みで、その手が振り払われたことを理解した。  ベッドから体を起こした春菜は、すごく辛そうだった。熱のせい? 違う気がする。 「フユト、あのね」 「ごめん、急に押しかけたりして。ゼリー置いていくから食べてよ」  なんとなくこの先の話を聞いたら気がした。葡萄ゼリーを春菜の手に押し付けて、足早に部屋を去ろうとする。   「フユト、別れてほしいの」  か細い声で告げられたその言葉。俺にとってはガツンと殴られたみたいな衝撃だった。いつかそんな日が来る気がしていた。だけど、それはもっと先のことだと思っていた。それほどまでに俺たちの溝は広がっていたのだろうか。 「なんで」  やっとのことで絞り出したのは、情けないくらい湿っぽい声だった。 「ほら、私たち、受験生でしょ。デートも全然できないし、これで付き合ってるって言えるのかわからないし」 「だからって別れる必要がある? 俺、デートできなくたって我慢できるし」 「私がだめなの。ごめん、フユト。ごめん」  たぶん、説得なんかできないと思った。春菜はいつもひとりで悩んで、決めてしまうから。この表情はもう全部決めてしまった後だ。
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