84人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめん、フユト。私ね、好きな人ができたの。フユトじゃない人。だから……」
「じゃあ何、最近会えなかったのはそいつと浮気してたってこと?」
春菜の両肩を掴んで、問い詰める。俺がずっと会いたかったそのときに、春菜は……
「違うの。その人には私の気持ちは伝えてないし。ただ、このままフユトと付き合うのは、フユトに失礼だと思って。だから、ごめん」
「そっか……」
両目に涙を溜めながら、その涙を零さないように耐える春菜にもう何も言えなかった。真面目な春菜らしい決断だと思った。涙を拭ってやりたかったけど、きっと春菜はそれを望まないだろう。
「今の曲、気に入ったなら後で送っておくよ」
「うん、ありがとう」
「春菜。俺さ、めちゃくちゃ好きだったよ」
ありがとう、と笑った春菜の瞳から涙が零れた。
「引き留めて悪かった。気を付けて帰って。おやすみ」
くるりと春菜の体を反転させて、背中を押した。春菜はおやすみ、と小さく手を振ってから歩き始めた。角を曲がるところまで見届けて、その場に座り込む。コンクリートに丸い染みができる。
こんなことになるなら、もっと好きって言っておけばよかった。
金木犀の香りが甘くて、甘くて、涙が止まらなかった。
to be continued……
『リレーバトン、春菜へ✎*。』
最初のコメントを投稿しよう!