セツナラセン ~金木犀の涙~

1/8
前へ
/8ページ
次へ
 開け放っていた窓から気持ちのいい風と共に金木犀の花の香りが流れてきた。日中はまだ暑いけれど、朝はだいぶ過ごしやすくなって、いつの間にか季節が秋に変わっていたことを知る。  布団に入ったままスマホの画面を確認する。今まさにアラームが鳴ろうとしたタイミングで、画面をタップした。体を起こして伸びをする。二度寝なんてするつもりはない。今日は、春菜(はるな)と久しぶりのデートの約束をしていたから。  パジャマのまま食卓に腰掛けると、母親が味噌汁とご飯をよそってくれた。流し込むように平らげて、ふとスマホを覗くと、春菜からメッセージが届いていた。 【ごめん、風邪ひいちゃって、今日のデートは行けなそうです】 【りょーかい、気にしないでいいよ】  その返信にはなかなか既読が付かなくて、余程具合が悪いのだろうかと心配になった。後でお見舞いにでも行こうと出かけられる準備だけして、部屋に籠ってベースの練習をすることにした。文化祭も終わってしまって、高校三年生の秋ともなればいよいよ受験と向き合わなければならない時期だった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加