自殺代行はじめました

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「何をした……?」 「赤斂(せきれん)ていうの。闇払いの術者が、体外に出た血液を操る技の総称なんだけど。今、霊力を帯びた血液が、あんたの体にまとわりついて動きを封じている」  マリーマイルスは、己の体を見下ろした。注視すると、確かに、無数の赤い塗抹(とまつ)と飛沫が巨体のそこここを覆っている。総量は、1Lや2Lではないだろう。 「これ、術者が大けがして瀕死になってから使われることがほとんどなんだけど。そんな状態で発動しても、普通はこんな精度も出力も出せないのよね」 「馬鹿な……こんな大量の出血を、いつの間に……」 「不死身ですからねえ」  振り向けない悪霊は、真後ろから聞こえてきた声に戦慄した。  声の主は、校舎の壁の下方から徐々にせりあがって屋上のフェンスを乗り越え、マリーマイルスのすぐ背後まで来た。 「わざわざ体を壊してくださって、ありがとうございます。赤斂は闇祓いにとっては起死回生の切り札ですが、不死身の僕にとっては常套戦術なので、血を出す手間が省けました」 「な……」  宙に浮いた千生良の生首は、血液を周囲に渦巻かせながら、マリーマイルスと蓮の間にふわりと浮遊する。 「わー、気色悪い」と蓮。 「ひどい……痛覚遮断の術がぎりぎり間に合ったからよかったものの、危うく死ぬほど痛い目に遇うところだったのに」  首だけの千生良はそう口をとがらせてから、視線はマリーマイルスに定めたまま、告げた。 「悪霊さん。僕らの周りで、人に自殺なんてさせようとしたのが運の尽きです。今、僕の血液はあなたの体内にも入り込んでいます。内側からあなたを散々に引きちぎりますので、まあ、防ぐ手立てもないでしょうし、散滅は免れないでしょう」  マリーマイルスは、何かを叫ぼうとした。  だがそれより早く、黒い毛皮は内部から爆砕するように――しかし音もなく弾け、粉々になって散らばった。  そして。 「これじゃ、今回は料金取れないわね」  蓮が鈴を取り出し、昏倒したままの朋乃の横で、ちりんと鳴らし始めた。
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