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翌週、百瀬朋乃が、心なしか少し明るい表情で登校するのを、千生良と蓮は校門の脇で見ていた。
「とりあえず、自殺する気は失せたみたいね」
「依頼があれば、ちゃんと代行しますけどね。ひとまずは、僕が先週末に血みどろのお化けの振りしてご両親を脅かしたのが利いて、虐待は治まったんでしょう。夜道で『己の娘をないがしろにする者は容赦せん』って言ったら二人ともがくんがくんうなずいてましたから」
「それはもうお化けの振りというかお化けじゃないのよ」
二人は、昇降口へ向かう。
「でも、ちょっと寂しいですね。同じ学校に、僕らの事情を知ってる友達ができるかもしれなかったのに」
「化け物との戦いになんて、万一巻き込んだらかわいそうでしょ」
「できれば、誰かに見て欲しいと思ったんです。僕らがやっていることを、第三者の、普通の人間に」
「あんたの活躍するところを?」
「いいえ。僕が自殺する度、実は泣きそうになっている蓮の顔とかです」
「おいっ!?」
ひええと駆け出す千生良が、しかし振り向いて、言った。
「本当です」
その顔は微笑んでいる。
「ああ……うん。いいかも。そのうちね」
「ええ」
靴箱に着くと、朋乃がちょうと上履きに足を通したところだった。
「おはようございます、百瀬さん」
「え? あ、蓬生寺くん、おはよう。そちらは、後輩の子?」
「見せもんじゃないよ」
「え、ええっ?」
「蓮っ」
三人は、きょときょとと顔を見合わせた。
そうして、つい、同時に軽く吹き出した。
何でもない高校の一日が始まる。
終
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