レンタル花嫁

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コロナ流行期の真っ只中、働いていたキャバクラが閉店してしまった。 高校を卒業して何ヶ月かのフリーター生活の末辿り着いた私の適職が、あっという間に影形なく消えてしまった。 キャバ嬢仲間に聞いてもどこのお店も閉店、もしくは規模縮小で雇ってはくれないようだ。 私はキャバ嬢としては売れっ子に入る部類だった。馬鹿だけど21歳とまだ若く外見もそこそこ良い、そしてノリがいい。お客さんのつまらない話もウンウンと聞いてあげることができる。 キャバ嬢としての素質を十分に持ち合わせていた。 三年近く月百万円近くの給料を貰っていたけれど、好きな服を買い好きなブランド物を買い漁っていた生活のお陰で銀行の預金残高は18万円しかない。 引っ越しが面倒くさくて家賃五万円のボロアパートに住んだままにしていたが、このお陰で今現在は命拾いしている。 コンビニでバイトしていた時代のように食費を切り詰めれば二ヶ月は何とか生き延びられそうだ。 大切なブランド品鞄コレクションは絶対に売りたくないけれど、もしコロナが続くようならそれも生きていく為には仕方がないことなのかもしれない。 大きなため息をつきながら部屋の一角にあるブランド品の鞄達を見た。 幼い頃テレビで見た鞄に一目惚れした。私もこんなカッコいい鞄が欲しいと貧乏暮らしの中ずっと夢見て憧れていた。将来この鞄が買えるぐらい稼ぐことが夢であり希望でもあった。 この鞄を集める為に仕事も頑張ってたんだけどな。 二週間近くスーパーに行く以外の外出もせずにテレビや動画を見て一人過ごしていた。 暇だ、本当にやることが無い。店の仲間たちは田舎に帰ったり彼氏の家に転がり込んだり上手いことやっているようだ。 私にも帰る家があればよかったんだけども、私には家族がいない、唯一の家族である世話をしてくれない母親は二年前に亡くなった。 身の上話をしていたらお客さんに「美樹ちゃんって天涯孤独だね」と教えてもらい、響きがカッコよくてそれ以来自己紹介する度に使っている。 私は天涯孤独だ、男なんて直ぐ浮気する信用できない奴ばっかだしきっとこれからもそうなんだろう。 彼氏はコロナが流行る前に彼の浮気が発覚して別れたばかりだ。キャバ嬢だからといって浮気を許すと思うなよ。 ゲリラ豪雨が午前中に降った天気が悪い八月の月曜日の昼、一本の電話が鳴った。よく指名してくれていた人材派遣会社の社長さんだ。 「もしもし田口さん?久しぶり、会いたかった」 「美樹ちゃん?久しぶり、店潰れたんだろ?どうしてる?」 「どうもこうも家にいるしかないし、他のキャバにも移れないしさ、田口さんの所で何か仕事ない?受付嬢とかさ」 「受付嬢はないけど、実は日払いのバイトあるんだけどやらない?」 「風俗系?だったら嫌だけど」 「そっち系じゃなくて、単発で花嫁のバイトしない?」 「花嫁?!それ風俗系でしょ?」 「正真正銘の結婚式場でやる花嫁の身代わりのバイト、打ち合わせ二回と当日一日で十五万出す」 十五万あればブランド品を売らずにもう一月生き延びられるかもしれない。 「やる、絶対やらせて!」 「良かった!それでこそ美樹ちゃん!」 いつものように田口さんはノリ良く答えた。 「それ本当に脱がなくていいよね?」 「大丈夫だって、俺が保証するよ」 パリピの田口さんの言うことはいまいち信用ならないんだけど、でもそっち系だったら逃げればいいか。 っていうか花嫁の身代わりって何だろう?
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