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私は、母を知らない。
正確に言えば、顔がわからない。残っているのは、ごく幼い記憶のみで、母に似た顔をしていると、叔母から聞かされたことがあるが、事の次第は定かではない。ビデオのような物はなく、写真は一枚も残っていない。唯一、丸みのある声と黒い長髪、四角い眼鏡が、私の母への印象である。しかし、これも幼い記憶であり、数少ない友人の親ということもあるかもしれない。
父が死に、葬式を上げるときであっても、一切顔を出さなかったという。実家もわからず、宛先のみの3万円がただ送られてきたのだと、線香を上げるだけの10回忌で、恨み言のように言われたことを覚えている。
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