遅刻の神様

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 思えばそれでも最初の内は余裕があったと思う。  限界ギリギリで校門をくぐり、靴を履き替えて階段に足を掛けたところからネタを考えてもどうにかなったものだ。 『昨日買った草鞋(わらじ)の紐が途中で切れちゃいましたので!』  は、「江戸時代かよ!」のツッコミが入って皆んな納得してくれた。 『昨日知りあったばかり女の子が、ベッドで僕を離してくれませんでした!』  も、「ありえねーだろ!」で何とかなった。  しかし、そうこうしている内に段々とネタが苦しくなってくる。何しろ1度使ったネタは2度と通用しないのだから。それに『相手』の要求するハードルも段々高くなっていく。 『自宅を取り囲んだテロリストと、激しい銃撃戦を繰り広げてましたので!』  は、「ほぅ……では、使った銃と弾丸の型式を言ってみろ」という銃オタクな担任のお陰で撃沈されてしまった。  それでもどうにかネタを考え続けねばならない。何しろ『遅刻』判定が5回貯まると「内申書に書くからな」と脅されているのだから。……残数はすでに『1』だ。もう余裕はない。 『乗っていた電車が途中で故障したので、後ろから押して来ました!』  は、そうした苦しい状況で生まれた『傑作ネタ』認定されたひとつだ。  ……別に嬉しくも何ともないが。 『朝起きて、"もしかして僕は月に帰らなくてはならないのでは"と悩んでたら遅くなりました!』  と言った時は「……何で男が『かぐや姫』になるんだ?」と冷静なツッコミが入って危うく撃沈しかけたが、 『BL展開なら、そういうのもアリだと思います!』  と言い切って、クラスの半数(女生徒)の同意を得ることでギリギリ何とかなった。人間、勢いも大事だと思う。
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