硝子球の映す

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ラムネの瓶を片手で隠してなにやらくるっと回して見せた。 すると次に、売り子のオヤジの手の上に、硝子球が。 「へええ。どうやったんだろう。凄いなあ。」 「ほら坊や。特別だ。この球(たま)は坊やにあげるよ。」 「本当?ありがとう!嬉しいなあ。」 透き通った球。水の色。この日の陽炎も、太陽も、喉をピリピリととおっていったラムネ水も、ぎゅっと閉じ込めてあるように思える。 「おじちゃんありがとう。」 何度も手を振って、連れ立った人とあるきながら、 その場を離れた。売り子のオヤジは笑顔で律儀に手を振り返してきた。 ✳︎✳︎✳︎ 「そんな事があったの。お婆ちゃんたら、よく、 あなたをどこかへ連れて行っては面倒を見てくれているのかしら、と思っていたけれど。 そんな秘密の遊園地へ行ったり、していたのね。」 あの時連れ立ってくれていた人は、祖母だった。 亡くなった後も、しっかりと建っている祖母の家へは、盆の頃に毎年訪れる。 物持ちのよかった祖母が、生前と変わらず、玄関口に立て掛けてあった日傘を見て、僕は祖母の娘である母に、そんな話をした。 あの時と変わらない日傘。陽の光を沢山浴びていたからなのか、ほんのりとあたたかい。 手にしたA玉(だま)は、今でも宝箱に仕舞われている。
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