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葉山涼々という男
「別れよう」
放課後、呼び出されていた。
つい数秒前まで愛し合っていたはずの人に。
「え」
「他に好きな人ができた」
固まる私の目の前にいる彼は、ありきたりな言葉を吐いた。
けど、そんな言葉は耳に入ってこず、現実が受け止められないでいる。
半年前、彼から告白してくれて初めてできた彼氏だった。
そんな彼のことがいつのまにか好きになっていたし、こんな唐突な終わりなんて考えていなかった。
それに、先週末もデートに行ったばかりだ。
なのに、こんな仕打ちがあるのか。
ジワリと視界が歪みかけたのを、ぐっと抑える。
最後に彼に泣き顔を見られるのは嫌だとおもったからだった。
ツラツラと言い訳を並べる彼に、怒りを覚える半分、やっぱり好きなのだと自覚させられる。
「彼女は、優しくて」
「瑠夏を、俺は幸せにできない」
「お前は、悪く無いけど」
なんてやんわり言うが、決して謝罪の言葉は述べようとしない彼でも、好きだった。
そして、とうとう何も言おうとしないわたしに痺れを切らしたのか、ただ早く終わりたかったのか。
「……わりぃ」
そう言い残して、空き教室に私を1人にした。
もっと何か言いたかったけど、ショックで何も声が出せなくて。
雌を呼ぶセミの鳴き声が私を嘲笑するようで、やけに煩わしく感じた。
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