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元彼の、廊下を駆けて遠ざかる音が聞こえる。
何が悪かったのかとか、なんで先週末デートしたのとか、いつから冷めてたのとか。
グルグル頭の中を占領する言葉が、私の視界を狭くした。
追いかける気力もなく、へなへなと座り込んで、溢れてきた涙を拭う。
1人になりたいのに、セミの鳴く声も時計の針が動く音も野球部の声も吹奏楽部の演奏も、ガンガン頭に響いて仕方ない。
刹那、ガラッと元彼が出て行った方でない扉が開いて、とっさに顔を上げた。
「……君山さん、どうしたの」
近づいてくるのは、私と同じ英語研究会の葉山くんだ。
「え、あ、いや、これは」
泣いているところを見られて、慌てて顔を覆った。
「さっき、彼氏が走って行ったけど、喧嘩?」
眉を下げて、心配そう話してくれる彼に、少し心が安らいだ。
ドギマギする私を見て、ハッとしたように「ごめん、話したくないよね」と言う。
ああ、やはりこの人は優しい。
今だって、なにがなんなのか分からないだろうに、私の横に腰掛けて、背中をさすってくれている。
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