葉山涼々という男

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心臓が嫌な音をたてて、血が引くように、頭が真っ白になった。 なんで、そんなこと(わたしも知らないこと)葉山くんが知ってるの。 好きな人がいることは、もう分かった。 けど、『2ヶ月浮気』してたことなんて知らない。 私の戸惑いが表情に現れた瞬間、彼の纏う雰囲気が変わったのを感じ取った。 いつもの爽やかさはない、黒く深い笑みを浮かべる葉山くんに、心臓が警鐘を鳴らす。 「でも、彼には感謝しなきゃね」 「どう、して」 私の知らない彼に困惑して上手く話せないのを、さっきまでの嗚咽のせいにする。 「ルカの可愛い泣き顔が見れたから」 ぞわりと生毛がたった。 泣き顔が可愛いわけないのに、葉山くんは嬉しそうに言うのだ。 「僕はね、笑顔よりこっちの方が好きだよ」 葉山くんの考えていることが、わからない。 少しの沈黙の後、私を宥めるような声で聞いてきた。 「ルカは、あのクズのこと忘れたい?」 「僕なら、すぐに忘れさせてあげるよ」 「……」 衝撃的であまりのことに涙がぴたりと止まっていた。 さっきから感じているもの、柔らかな言葉遣いの間に垣間見える酷く歪んだ心。 「答えないのか」 綺麗な彼の目元がピクリと動く。 「ねえ、ルカ」 ああ、そういえば、なんでこの人は下の名前で呼んでいるんだろう。 ずっと、『君山さん』だったのに。 「ルカ」 まるで慈しむような声で、彼と目があわされて、金縛りにあったように固まった。 頭の中は未だに混乱している。 ただそれは、彼氏が浮気していたことに対してから、の葉山くんについてにすり替わっていた。 「僕のになりなよ」 自然な動作で彼にふわりと左頬に手を添えられた。 左胸はドクドクと大きく脈打つのに、動けない。 嘘みたいに周りの音が聞こえなくなって、彼の瞳に吸い込まれそうになる。 そのまま視界が暗くなって、唇が_____。 彼の柔らかいものとあたった。 一瞬理解できず、思考も停止してしまう。 やっとナニをされているか分かって、感情が込み上げた。 「なん、でっ」 一年生の前半は高校生活に慣れなくて、恋愛どころじゃなかったし、三学期からは彼氏がいた。 だから、恋愛対象として彼を見たことはなかったのに。 あの葉山涼々にキスをされた。 「ルカ」 私の問いには答えず、愛おしいと言わんばかりの視線を向けられる。 「(けが)れて」 やっぱり意味がわからない。 「早く、僕とひとつになろう?」 頭がオーバーヒートした私は、恍惚とした表情を浮かべた葉山くんを振り切って、家路を急いだ。 みんなみんな意味がわからなかった。
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