葉山涼々という男

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◇ 教室を飛び出したあと、葉山くんが、追ってくることは無かった。 大好きだった彼氏にふられたと同時に、明るみになった彼氏の浮気、信頼していた葉山くんの歪んだナニカ、そしてキス。 そこまでを時間にすれば、三十分弱だったと思う。 でも、その三十分で信じていたものが二つ壊れた。 目まぐるしく、再生される映像。 ライトを目に直接当てられたときのように、その記憶を反射的に拒絶した。 いっそ消してしまいたかった。 「ああっ、ほんとっ」 止めたはずの涙が堰を切ったように、頬を伝う。 「好きだ」って言ってくれたのは、彼からだったのに。 私にとってそれは、宝石みたいなキラキラした思い出で、彼にとってもそうだと思い込んでいた。 けど、いつからか私だけのものになっていたらしい。 脱力して、上手く力の入らない体をベッドの上に投げ出した。 ……それに、なんで葉山くんは放課後あそこにいたの。 今日は火曜日で英研の活動日じゃなくて、本来なら彼も下校している時間帯だったし、私が呼び出された教室は、ホームルームがある方じゃなくて、特別教室ばかりの棟だ。 そんなところに、用があったとでも言うのだろうか。
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