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「校庭なんかに呼び出すなんてひとみ、弘樹君に告られるんじゃないの?」
8時を回って。
校庭周りの道路を照らす街路灯の灯りが僅かに照らす校庭の中央に立って、あたしは親友の陽子と佇んでいた。
「まさか!友達も呼んでくるといいって言われたんだよ?」
あたしは慌てて反論したが内心その可能性も考慮しなかった訳でも無く、あたしは何故か浴衣姿だった。
そんなあたしのいでたちに陽子の言葉だったのかもしれないが本音を言えば「そうだったら良かったのに」というのがあたしの本音。
「それにしても……」
陽子が周囲を見渡して溜息をついた。
「女の子呼び出しといて、肝心の弘樹君は何処に居る訳?」
陽子の言う通り、人を校庭に呼び出して置いて当の弘樹君の姿はどこにも見えない。
「8時って言ったんでしょ弘樹君?」
口を尖らす陽子の言葉にあたしは手首の時計を覗き込んだ。
「ま、まだ30秒あるから……」
誘った手前もあって、あたしは弘樹君に代わって言い訳する。
「校庭の外見ても人影一つ見えないのに、超能力者みたいに時間丁度に目の前に現れたりするわけ?」
問い詰める葉子の表情は咎めるというより気の毒そうな表情だ。
答えに窮したあたしが見つめる校庭周囲に陽子が言う通り人っ子一人居ない。
「ごめんね陽子ちゃん。あたし、からかわれたのかも……」
小声で言ったあたしの背後で何かが破裂したような鈍い音が鳴った。
落ち込むあたしを振り返った陽子ちゃんの表情が変わった。
「ひとみ!後ろ!!」
陽子ちゃんの目が見開かれている。
「後ろ!!後ろ!!!」
肩を回されて振り向いたあたしの目に、上空に星を纏った校舎の大きなシルエットがあった。
その校舎の1階の教室の窓とおぼしき辺りで。サイリュウムだろう鮮やかな光が踊っている。
「2階も!」
陽子ちゃんが叫んだ。
見れば、2階どころか3階の教室の窓の辺りにも踊るオレンジの光。
「花火だよ!!」
興奮した陽子ちゃんが叫んだ。
「見て!!1階から3階まで連動してる!!」
確かに1階で素早く開く様に閃いたサイリュウムに呼応するように2階で背伸びするように舞い上がる青いサイリュウム。
一瞬の間を置いて3階で大輪の花を模したオレンジのサイリュウムの華が開く。
「一人じゃ出来ないよあんなこと!!」
誘われたあたしより、同伴の陽子ちゃんが興奮している。
「友達頼んで用意したんだよ!ひとみ!!」
「どうすんのひとみ!!ねえ!どうすんのひとみ!!!」
眼前で展開する光の乱舞に目を眩ませられながら、あたしは明日弘樹君にどんな顔みせたらいいんだろうと身悶えた。
絶叫する級友を隣に置いて。
屋上の星と校舎の花火が重なって見えた。
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