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最近起きた怖い出来事は何かありますかーー。
浪岡高校の一年である畑中玲二は友達数人で夏の思い出として近所で有名な心霊スポットである墓場に出かけた。玲二は肝試しなんて子供騙しの遊びだほうと内心小馬鹿にしていたが、この後起こる恐怖体験のことを彼はまだ知らない…。
「なあ、本当に行くのかよ知幸!」
「なんだ、今更ビビってんのか玲二」
「玲二は子供の時からビビリだったもんな」
「そ、そんなことないっ!」
玲二は友達の知幸と一緒に高校の旧校舎に向かっていた。その旧校舎には不気味な噂がありある女子生徒がいじめの末自殺したとの噂があった。地方新聞に報じられてたちまちマスコミが高校に押しかけてきた。結局自殺の理由は分からないまま…。
「旧校舎に何の用があるんだ」
「玲二も聞いただろ、あの旧校舎で自殺した女子生徒がいたって」
「それが何なんだ、卒業する間際に旧校舎に行くって…」
「だから行くんじゃん!」
「玲二は卒業したら東京に行っちまうんだろ?」
「お前と過ごす最後の夏の思い出に肝試し大会をするのも悪くないだろ?」
「本当知幸って肝試し好きだよな…」
「俺はお前みたいに肝試しに興味ないからな」
「そんなこと言わずに行こうぜ」
「旧校舎にサプライズゲストもいるし」
「誰だよ、サプライズゲストって?」
「それは、ついてみてのお楽しみ!」
知幸は玲二を引き連れて旧校舎に向かった。その旧校舎は夜になると不気味な雰囲気が漂い重苦しい空気が流れていた。女子高生がここで自殺したと知幸から聞かされていていた玲二はそのせいもあるのか嫌な気配を感じていた。
「なんか嫌な気配を感じないか?」
「なんだよ玲二、もう怖がってんのか?」
「まだ始まってもいないだろ」
「別に怖がってなんかないさ!」
「俺はただ思ったことを言っただけだ」
そんななか、間宮海人が目の前にいた。間宮海人は玲二と幼馴染で辛い事も楽しい事も分かち合ってきた。海人は旧校舎前の校庭からやってくる玲二と知幸を待っていた。彼はただ静かに旧校舎そばの大きな木に寄りかかり腕を組んでいた。
「いたのか、海人!」
「知幸、お前のくだらない肝試しに付き合わせやがって」
「玲二に頼まれて仕方なく来たけどさ…」
「いいだろ?絶対楽しいって」
「ここで女子高生の霊がいると思うだけでゾクゾクしないか?」
玲二は知幸に頼まれただけで海人をここに呼んだのではなかった。海人に相談したいことがあったのだ。玲二は恋人の松井明菜を田舎に置いて東京へ行くのだ。玲二は東京に行くことを今でも迷っていて海人に相談しようとしている。
「なあ、海人。俺は一体どうしたらいいと思う?」
「そんなこと俺に聞くなよ、玲二が思ったことをやればいい」
「明菜は納得してるのか、玲二が東京に行くこと」
「俺たちの険悪な空気を見ればわかるだろ?」
「あいつは俺と離れたくないみたいでさ、遠距離恋愛でも大丈夫だといくら言っても聞かないんだよ」
「女は愛を形を求めるからな、好きな人とはずっとそばにいたいんじゃないか…」
玲二、知幸、海人の三人は旧校舎に入っていった。すると、突然昇降口の廊下の奥から物音が聞こえた。知幸が覗き込むと、明菜が下駄箱の影に隠れていて近づいてきた知幸を驚かした。
「知幸ってホラー映画が好きなくせにビビリなんだから」
「うるせぇ!松井が来るなんて聞いてなかったぞ!」
「私も来るつもりはなかったわよ、でも玲二と話したいことがあるから」
そう言って明菜は玲二のそばに行き、玲二を一階の「1-B」の教室に連れていった。明菜は玲二に本当に東京の大学に行くのかと執拗に尋ねる。
「俺は教師になりたいんだ!」
「だったらここの大学でも教師は目指せるでしょ」
「東京には叔父さんがいるし叔父さんも東京の大学に行くことを許してくれたんだ」
「私を置いて東京に行くなんて…私のこと嫌いになったの!」
「そうじゃない!明菜には悪いと思ってるけど仕方なく…」
その時、突然教室の後ろのロッカーがものすごい音を立てて揺れ出した。明菜と玲二は思わず振り返り近づくとロッカーの揺れは突然止まった。ちょうどその時、知幸と海人が異変に気づいて教室に駆け込んできた。
「一体なんの騒ぎだ!」
「とぼけないでよ知幸、さっきの仕返しのつもり!」
「仕返しってなんのことだよ」
「前もって仕掛けておいたんでしょ、全く趣味が悪いわね」
「もしかして俺が松井たちを驚かせようとしてたって言いたいのか」
「じゃあロッカー見てみよ!何も入ってないだろ」
ロッカーの中を見ると確かに何も入っていなかった。明菜は悔しそうな表情を浮かべていたが、玲二は不思議に思っていた。玲二たち4人は女子高生が自殺したという音楽室に向かった。
「なんだか不気味だよな〜」
「ここで女子高生が自殺したんだろ」
「なんでここで自殺したんだろうな」
「当時の新聞で見たけど彼女どうやらいじめられてたらしい」
「いじめを苦にした自殺とだけ書かれてた」
「海人、そんなこと調べてたのか」
「お前ってまめな奴だよなー」
「こういう危ない場所に来る時には念密に下調べするもんだろ」
「何も調べずに来るお前が能天気なんだよ」
「なんだよそれ、名門大学に行くからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「危険なことなんて何もないぞ、調べたからなんだっていうんだ!」
「最初会った時から思ってたんだが俺はお前のことが嫌いだった」
「なんでも勢いだけで解決できない」
知幸は海人に言われたことが図星だったのかトイレに駆け込んでいった。知幸は何か気に入らないことがあるとすぐにトイレに引きこもる癖があった。玲二たちは知幸の帰りを待つ間に音楽室で自殺した女子高生のことを海人から聞かされる。女子高生は高校二年生の頃音楽大学を受験するために音楽室でピアノの練習をしていた。そんな時に、音楽大学を受験するライバルの女子生徒が彼女の才能に嫉妬して陰湿ないじめをするようになった。女子生徒はそのいじめに負けないように必死にピアノの練習を積み重ねていたが、ある日突然女子高生は自分の腕の動脈を切って自殺した。
「なんてひどい話、才能に嫉妬して追い詰めるなんて最低だわ!」
「人間は他人の才能に嫉妬する生き物だからな、俺にも経験がある」
「海人くん、そんな経験があるの」
「なんでもできるイメージだけど…」
「俺だって苦労してるんだぜ、明菜もそうだろ」
明菜と玲二は卒業したら離ればなれになってしまう。タイムリミットが迫る中で二人はお互いの時間を大事にしたいと考えていた。そう思った時、音楽室のピアノが突然演奏を始めた。曲目はベートーヴェンの「エリーゼのために」で明菜と玲二の背筋が凍りつく。さらに、鍵盤からどこからかちが滴り落ちてきてきた。身の危険を感じた二人は音楽室から逃げ出す。
一方、トイレに駆け込んだ知幸は女子トイレから不審な物音がして恐る恐る物音がする方に忍び足で近づいていく。すると、女子トイレの便器から突然赤い水が放出して知幸の顔に命中した。知幸は水圧で後ろに吹き飛ばされて壁に激突する。知幸は絶叫して、そこに駆けつけたのは海人だった。海人は知幸のずぶ濡れの姿を見て愕然とした。知幸はまるで血塗れの姿になっていたのだ。
「一体なんなんだよ、これ!」
「落ち着け、多分排水管が錆びついて水が赤く見えているだけだ」
「お前はかかってないからいいよな海人、冷静に分析してないで逃げるぞ!」
「肝試しはいいのか、まだ何もしてないぞ」
「もう十分怖いよ、こんなところに来たのが間違いだった!」
ホラー映画好きの割に怖がりの知幸は玲二と明菜がいるにも関わらず旧校舎を一目散に逃げていった。海人は玲二と明菜を連れ戻そうとしたが、海人は知幸が心配になって知幸を追いかけた。一方、明菜と玲二は旧校舎を彷徨い歩き、明菜は玲二の東京行きについて話をした。明菜は玲二と離れるのが嫌だと自分の素直な心情を吐露した。
「なんで東京に行かなきゃならないの?」
「仕方ないんだ、東京で教師になるのが夢なんだ」
「ベタだけど高校教師が主人公のドラマを観て教師を目指したんだ」
「そのドラマでは東京の高校が舞台で東京って街がすごく輝いて見えたんだ」
「そうなんだ…そんなこと言われたら送り出すしかないじゃん」
明菜は玲二がいなくなって寂しいと念仏のように言っていたが、玲二の夢がどれだけ大事なものかを聞き明菜はそれからは東京に行くなと言わなくなった。明菜と玲二が階段から降りようとしている時に突然明菜が何者かに階段から突き落とされたように階段から落ちようになった。玲二がそれを見てとっさに明菜を庇って階段から落ちました。明菜は無事だったが玲二は気絶をしてしまう。
「玲二、起きてよ玲二!」
必死に明菜は玲二に呼びかけたが返事がない。その時、心配になって駆けつけた海人が助けに来た。海人は玲二に応急処置を施して救急車を呼んだ。実は看護師を目指している海人は迅速な応急処置の方法を熟知していた。玲二は救急車で病院に運ばれて明菜と海人も付き添った。手術をしたが、幸い大事には至らず玲二は回復していった。玲二の病室に明菜がやってきて玲二にこんな話をする。
「本当によかった、私玲二が死んだらどうしようかと思った…」
「大げさだよ、打撲をしただけだし」
「バカっ!本当に心配したんだから、何かあったらどうするの!」
「ごめん、そんなに泣くとは思わなかった」
「でも本当に無事でよかった」
海人、知幸も玲二の病室に来て海人は玲二が入院してから自殺した女子高生のことを調べていた。海人と知幸が女子高生の両親に話を聞きに行くと、女子高生には彼氏がいてその彼氏は夢のために東京に行った。しかし、彼氏は東京で恋人を作って新しい人生を歩んでいたと知って絶望した女子高生は自殺をしたというのが真相だった。夢も恋人も失った彼女の悲痛な叫びを聞いた気がした玲二と明菜はお互いの今の心境を彼女に重ねていた。
「俺、地元の大学に入学して教師を目指すよ」
「い、いきなり何言い出すの!」
「東京の大学に行って東京の高校教師になるのが夢だったんじゃないの?」
「俺は東京に憧れてただけなんだ、でもそれじゃ大事な人を守れないことに気づいた」
「俺はもう少しで大切なものを失うところだったんだ」
玲二は明菜を突き飛ばしたのが女子高生の霊ではないかと思っていた。彼女が玲二の過ちを教えるためにわざと明菜を突き飛ばしたのかと考えていた。それを確かめる術はもはやないが玲二はそう信じたかった。今までのポルターガイストも彼女なりの警告だったのかもしれないと玲二は打撲した足を摩りながら考えていた。
「明菜、俺絶対立派な教師になるから」
「そばで見守ってくれよな」
「何言ってるの、当たり前じゃない!」
こうして俺たちの高校時代のひと夏の思い出は幕を閉じるのだったーー。
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