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とにかく家賃の安い部屋を。
そう思って選んだのは、昭和建築のボロアパートだった。
しかし入居したその日から天井が騒がしい。
ラップ音か? ポルターガイストか? 事故物件だったのか?
いや、違う。ネズミだ!
天井にネズミが住み着いているのだ!
まあ仕方ないか。ボロアパートだからな。最初はそう思っていた。
しかし、我が部屋への侵入を許してからは事態が一変する。
部屋のあちこちにフンをまき散らし、噛み跡を残し始めたのだ。
我慢の限界を越えた私は、ついにクソネズミどもの退治をはじまる。
最初に使ったのは粘着シートだった。かなり有効だが死体が残る。生ゴミとして捨てるのだが、その日までは家に置いておかねばならず、気持ち悪かった。
次に使ったのは毒エサ。それなりに効果はあるが、どこで死ぬかが分からないのが問題だった。ある日、風呂場から腐敗臭が。どうやら壁の隙間で死んだらしい。それだけならまだ我慢できたが、数日後にハエが大量発生した。クソネズミの死体に植え付けられた卵が、全部成虫になったようだ。これ以降、毒エサは最後の手段にしようと決めた。
基本的に動物好きなので猫を飼う事も検討したが、数日間家を空ける事もあり、責任を持って飼っていける自信がなくて断念した。
そんなわけで、クソネズミ退治は最初からずっと粘着シートが主戦力だ。
しかし、粘着シートに張り付いたまま死んだクソネズミは惨めというほかない。
たまに、張り付いて間もない生きたクソネズミも見かける。逃げだそうと必死に足掻く姿は、憐れというほかなかった。
だが仕方ない。コイツラは害獣だ。惨めで憐れでも、放置すれば大変なことになる。
いや、まてよ?
だったら、放置しなければ良いのでは?
殺すのではなく生け捕りにし、ケージに入れるのだ。
もちろんペットにする気は毛頭無い。コイツラはクソネズミ。害獣だ。
あくまで生態を知るため、観察するために生け捕るのだ。
ケージから出す時は死んだ時のみ。だが、それまでは生かしておいてやる。
そう決めた私は、ネットショップで安物のネズミ捕獲器を購入し、天井近くにセットする。
クソネズミはすぐに捕まった。
早速クソネズミを手作りケージに入れ、いよいよネズミ観察がはじまる。
しかし観察は3日で終わった。脱走されてしまったのだ。
次の日、台所に仕掛けていた粘着シートで冷たくなったクソネズミを発見する。脱走したヤツだった。
たかが一匹の害獣が死んだだけ。それだけの話だ。だけど……。何故か悲しかった。
それを最後に、天井は静けさを取り戻す。どうやら一通り退治できたらしい。
だけど奴らは、再び現れる。新たに生まれたクソネズミがアパートに住み着き、天井を騒がしく走り回るだろう。
だから次は失敗しない。捕まえたクソネズミは絶対に逃がさない。自由は奪うがエサは十分に与え、今度こそじっくり観察するのだ。
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