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今夜も多分、ユイが出てきていて悠司のところにいるのだ。それが苛立たしい。何故光を誰かとシェアしなければならないのだろう。別の男のところにいるのかと思うと、無性に独占欲が沸いてきて、心を乱す。悠司はそうは思わないのだろうか。
可愛いからって女装なんてさせなければ良かった。と後悔するが、もう遅い。
しかし、会ったことはないが悠司とはどういう男なのだろう? どうやらシスコンなのだという噂を聞いたが、そんな男が光とうまくやってゆけるのだろうか。
うまくやってもらわなくて、大いに結構だ。しかし、気になる事項ではあった。
「光なんて呼んじゃってさ。見た目と違って可愛らしいんだからなあ、尚志は」
繭に指摘されて、尚志はぎらっと睨み付ける。いちいちうるさいのだ、この兄貴は。おせっかいだし、胸なんか作ってしまうし。いいじゃないか、名前で呼んだって。
……いつか、
ユイはいなくなるような気がする。
光の中に生まれた女は、ずっとずっといるわけではないような気がする。
不確かな存在を、悠司がどのように扱うのか。会う必要などないと思う反面、一度会って話してみたいと、尚志は心のどこかで望んでいた。そいつがどんな人間なのか、知りたい。それによって今後ユイがどうなってゆくのか、見えるかもしれない。
ユイの分離が総合的に見て光にとっていいことなのか、悪いことなのか、尚志にはわからない。ただ、もしそれで、光がユイに取って代わられることが起こるのであれば……いや、そんなことは起こらない。起こってはならない。
所詮は心の歪み。光の中に生じた闇だ。
他の誰でもない、自分が追い詰めたのだ。
そう思ったが、それは誰にも告げたりはしない。言ってどうなるというのだ。
空になったグラスに残る氷が、微かな音を立てて崩れ、やがて水になった。
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