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董子の母親である小百合は、悠司にとっては本当の母親ではない。あの人、という呼び方は多分、母として受け入れていない証拠だ、と董子は思っている。
尤も、親子と表現するには二人の年齢が幾分近かった。悠司が16の時に父と再婚して義母となった小百合は、当時28歳。多感な年頃だった悠司にとって、小百合は受け入れがたい存在だったのではないか。
実家にいる時から、悠司と小百合の折り合いはあまり良いとは言えなかった。董子の前ではなんとか取り繕ったような関係を保っていたが、それは偽装された仲なのだと知っている。悠司が今一人でこの家に暮らしているのも、小百合と一緒の家にいるのが苦痛だからなのだろう。大人げないような気はしたが、時が解決する問題でもないようだった。
董子にしてみれば、自分の母だ。仲良くして貰えれば、それは非常に嬉しい。嬉しいが、無理に仲の良いふりをさせることなど出来なかった。
「……え、あ。なんとなく話してたら、そういう流れになって。ごめん。言わない方が良かった?」
ぎこちなく返答した董子をスルーして、悠司は顔を洗いに行ってしまった。いつも董子を可愛がって、話もよく聞いてくれる普段の兄からは考えられない行動だ。生返事でもなんでもしてくれたら良かったのに、無言とは。
……失敗した。不用意に母の話題など振るべきではなかったのだ。それさえなければ、兄と自分は良い関係を保てるはずだった。
もう、この話はしないことにする。董子は自己嫌悪のため息をついて、調理したものを皿に盛ることに専念した。
――馬鹿げてる。
鏡を睨みつけ、悠司は心の中で吐き捨てる。
心配だなんて、恥ずかしげもなくどの口が言えたのだろう。董子には悪いが、悠司には小百合を好きになることなど到底無理な話だった。それが自分の子を生んでくれた女でも。
……いや。
それこそが、要因の一つだ。
董子は知らない。
戸籍上は妹ということになっているが、遺伝子上彼女は、神崎悠司の娘なのだ。16の時の。義母との間に生まれた。父も知っている。董子だけが知らない。
それはとても、いびつな関係なのだ。
悠司は深く深く深呼吸をして、感情を切り替えることになんとか成功した。
ユイが傍にいてくれれば良かったが、彼女は今、ここにはいない。どこを探しても、世界中のどこにも存在しない。
……ユイを好きになったのは。
もしかしたら自分と同じように、行き場のない歪みを抱えている存在だったからなのかもしれない。
それでも良かった。お互いが楽になれるのなら。
自分自身に吐き気がした。
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