たった一言が言えなくて。

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”告白代理店、始めました。" ふと、そんな張り紙が貼ってあることに気付く。 最寄り駅にある小さな駄菓子屋で見つけたそれは、手書きの文字で、こう綴られていた。 ”__貴方の秘めた思い、言いにくい本音、伝えたい言葉、何でも承ります!" 幼少の頃から通っているここは優しいおばあちゃんが毎日迎えてくれる店で、今年から社会人になる身でもある自分でも未だに通っている。 おばあちゃんは一度病期を患い入院をしてしまったが、退院して今は元気に僕を迎えてくれている。 「おばあちゃん、これは?」 「最近ここら辺に出来たらしいわねぇ。秘めた思いを代弁してくれるなんて、凄い時代になったものね。」 口元を隠しながら微笑むその仕草からも、上品さを感じる。 「僕も一つ、頼んでみようかな?」 「あら、何を言ってもらうの?」 「告白、かな。」 思い馳せる彼女の笑顔を思い浮かべながら、そう答えた。 「今の若者らしいわねぇ。機械を使ったり、電話で伝えたり。そういうののどこが良いのかしら。」 「おばあちゃんは、どんな感じに告白されたの?」 「あら、聞いちゃう?」 さっきのような上品な笑みから、ニタッとした少年のような笑顔になりながら言った。 「そりゃもう熱かったわよ。初デートで告白されたから流石に驚いたわよねぇ。その時は断ったけど余りにもしつこいんだもの、4回目で折れちゃった。」 「4回も告白させたの?」 「それだけおじいちゃんの思いが強かったっていうことね。」 今度は嬉しそうな、恋する乙女のような表情を見せる。おじいちゃんはこんな表情豊かな部分に惚れたのかもしれない。 「でも、私はおすすめしないわ。」 「なんで?」 「そりゃあ嬉しくないからでしょ。」 冗談で言ってみただけなのだが、真に受けたのか真剣な顔をしている。 「大事なものこそ自分で言うべきよ。本当に伝えたいことはその人自身でないと伝わらないわ。」 「まぁそうだよねぇ。」 麩菓子を片手におばあちゃんの所へ向かう。 レジなどの機械の無い店なので、そのままお金を手渡しする。 「告白、頑張りなさいな。」 帰り際に言われた言葉には、曖昧な返事しか出来なかった。
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