たった一言が言えなくて。

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確かに聞こえた。 「え...?」 「ごめんなさい。」 さっきのようなキラキラした笑顔から一変、悲しそうな憂いを孕んだ瞳で見つめながら言う。 「なんで...」 正直振られるとはあまり思っていなかった。 この告白文はプロが作ったもので、模範解答のような、綺麗な文だ。 だから大丈夫だと思っていたのに... 「今日の佐藤、何かおかしいと思ったんだ。」 「おかしい...?」 「うん。」 彼女は混乱する自分を置き去りにして、次々と言葉を発する。 「ねぇ佐藤。」 「もう一回、告白して?」 「え?」 言っている意味がわからない。 告白はさっきしたばかりで、でも今自分は振られたばかりだ。 「何、言ってるの?さっき告白したし、それに高野は...」 「あれ、佐藤の文じゃないでしょ。」 バレてしまった。 「...何で、わかったの?」 「口下手な佐藤が、作れる訳ないじゃん。」 「そんなスパッと言わないでよ...」 今度は微笑みながら、冗談めかして告げる。 「私はね、そんな告白が聞きたい訳じゃないの。口下手なままの佐藤の言葉が聞きたい。」 「確かにこの文は頼んで作ってもらった。でも気持ちは本当だし、勿論僕の想いに偽りは無い!」 「そういうことじゃないよ。」 次は苦笑しながら、少し怒ったように言う。 「想いっていう感じはね、相手の心を想うって意味なんだよ。誰かが書いた私への文は、何にも意味を成さないの。」 「だから佐藤、もう一回、今度は即興で伝えて?」 「でも、上手く言えないし...」 「それでいいの、上手なものは求めてない。」 期待を含んだ眼差しで、表情はコロコロと変わりながら求められる。 国語は苦手だ。 相手が何を考えているのかなんて、そんなの分かる筈がない。 それでも、 「高野さん、なんて、他人行儀に呼ばないで。」 悲しそうに君が言うから。 「長々とした前置きなんていらない。」 上手く思いつかないけど。 「一言でいいの。」 ちょっとの勇気くらい、振り絞れよな。 「高野、僕高野のことが______」
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