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「でもさ、彼氏。欲しくない?」
澄んだオリオン座の光る寒空の下、話を蒸し返したのは友人の千春だった。
彼女と私で大抵は一緒に行動しているので、周りからは春晴と括られたりもするが、千春は私よりも社交的で、何より可愛らしい。
天パだ、天パだと、本人としては悩みの種のように零しているが、私は彼女のゆるく波打つ髪が憧れだったりする。
一方の私は、白衣を着た理系女子によく描かれているだろう風体の眼鏡っ娘。さらに言えば、髪は肩より下に伸ばしたことも無い。
「それは欲しいと願えば叶うものかしらねぇ」
恋の落ち方なんて知らないと、遠い目を夜空に向けた。
「や、無いでしょ。ドラマじゃないんだから」
うちは女子大、故に出会いは皆無。
「だよねぇ」
「だから、やっぱり狩りをしないとね」
「がっつり肉食系女子ですか」
「そ、白滝ばっかり食べててもダメな訳ヨ」
しっかり見られていた。
「でも、どうするの?合コンでもするの?」
「そんな伝手があれば苦労は無いよ」
きっと、探せば無いことも無いのだろうが、なんせチキンな私たちだ。
「だからってオンラインはもっと怖くない?」
見えない相手との遣り取りは微妙だ。
「ん、だからもう少し安心かつ、堅実なやつでね」
そう言って、千春は掲示板に張り出されていたアルバイト募集の求人票の一覧を私の前に掲げて見せた。
「大学が斡旋しているところだから、幾分か安心でしょ?」
本校は、世間では名の知れたお嬢学校なもので、アルバイトをしている子自体が割と少ないのが現状だった。加えて言えば、私のように奨学金で在席している者も稀である。てっきり殺到すると思っていた奨学金の申し込み率は驚きの低さで、お陰様でスムーズに受理されました。
「ふぅん、これなんてよくない?」
地下鉄の灯の下で私が指差したのは税務署のアルバイトだった。
「時給も割と良いし、確定申告とか社会勉強にもなりそうじゃない?」
「ん、私も初バイトとしては安心かなって思ってた」
身を乗り出して、千春も頷く。
「じゃあ、面接だけでも受けてみようよ」
こうして、世間では箱入り娘と呼ばれる部類に入るのだろう私たちは、新天地での良き出会いを求めて、アルバイトをすることに決めた。
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