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アルバイトの仕事も板につき、職場の空気にも随分と慣れてきた頃。
「嗚呼、分かった」
何故に人当たりの良さそうな面々に反して、公務員が少々横柄に見えてしまうのか。その違和感にようやく気付く。
「ん?何が分かった」
背後から急に掛けられた声に私は驚いて振り仰いだ。
「気配を殺して近づかないでくださいよ、瀬野さん」
「んな、必殺仕事人じゃあるまいし、殺さねぇよ。普通に近づいた」
私は集中すると周りが極端に見えないタイプ。だから、電車に乗っている時は、本をなるべく読まない。高確率で降り過ごしてしまうから。
「キー入力してるときはゾーンなんです。入り口辺りから鼻歌でも歌いながら入って来てくださいよ」
「ぶふっ、無茶言うなよ」
吹き出した瀬野さんは私の頭を軽く小突いた。いつの間にか、瀬野さんとの距離も突っ込みを受けるレベルには近づいていたようだ。
「お前のその真顔で言う冗談って天然か?狙ってんのか?」
「さぁ?反射運動の一環ですかね。計算でするのは芸人さんの域でしょう?」
「確かに。で、何が分った。どっか、ミスったか?」
「――いえ。ちょっとした独り言です。お気になさらず」
現役公務員に喧嘩を売る気はない。
「吐け」
知り合ってまだ片手ほどだというのに、瀬野さんは私の僅かに見せた後ろめたさを見咎めた。
「一般的にと、世間も言っているので、怒らないでくださいよ」
頷いた瀬野さんに、私は先ほど解明したことを明かした。
「公務員が横柄に見える理由です」
「ほう?」
ほら、その顔です。と、までは言わなかった。
「お客様だと思っていないんですよ。公共機関だから利用者だと思っている」
間違ってはいないが、日々をお客相手に仕事をしている人や、その対応を受けている身からすれば、横柄に感じても致し方が無い。中にはいる感じの良いと思える人は、単に人と接することを得意とするだけだろう。
「嗚呼、なるほどな」
「その意識を変えないことにはレッテルは剥がれませんね」
肩を竦めて、私はまたキー入力に戻った。
「部外者だから視えた観点だな。盲点だったよ」
瀬野さんは気を悪くするでもなく、寧ろ少し嬉しそうに口角を上げて出て行った。
変える気なら変えられる。直ぐにでも。
彼の顔にそう書いてあったように見えたのは、単なる私の希望的観測だろうか。
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