初恋は実らぬもの?

1/11
前へ
/80ページ
次へ

初恋は実らぬもの?

「制服着ている間の恋なんて、信用ならない」 自身の全貌さえ見えていない十代に、他人を抱える余裕なんて微塵も無かった。  私、田中晴恵にとって、恋とは絵空事だった。  田中晴恵――制服を脱ぎ捨てて間もない弱冠十九歳。 そんな私は、大学の同期らと一緒に鍋を囲んでいた。 「ふぅん、ハルちゃんはそんな風に硬派に生きて来たんだね」 「硬派って言うか、地味女として?清く正しく生きて来たのかも」 私は大好きな白滝をごっそりよそいながら、曖昧に頷いた。 (葛切りよりも、白滝派何だよね……) 白滝に春菊の緑が移り込んだくらいが好きなんだよ。などと、にんまりしている此処は、大学の実験室だ。 「ねぇ、ところでどう?」 「ぶっちゃけ、違い何て分かる?」 私たちは顔を見合わせて、互いに首を横に振る。 「どっちも美味しいよね。そんな鋭い味覚は持ち合わせてないよ」  原料となる大豆を石臼で丹精込めて磨り潰して作った豆腐と、ミキサーで攪拌して作った豆腐の二種類に目を向ける。どちらも見た目に差異は無く、今となってはどちらがそうであったのかも定かでなくなった。そんな、石臼豆腐とミキサー豆腐のどちらが美味しいと感じるのかの官能評価実験を行った後の祭りが、今の鍋パである。 「そもそも、そこまでの豆腐愛が無いかも」 例えば、豆腐をこよなく愛する人には分かるものなのかもしれない。 「「「だよねぇ」」」 「でも、市販の安価なものよりは格段に美味しいよね」 「それは単に大豆含有量が多いだけだって……」  優劣の付かない実験結果では面白味も無く、溜息を吐いて終わる。 「去年のサラダ油の脂質酸化実験の方が興味深いよね」 卒論の参考にと、先月行われた4回生の発表会を振り返る。興味津々で耳を傾けた記憶に、頷き合った。 「食用油って、どの程度まで使い回しが可能か分かりにくいよねぇ」 「何回くらい使ったら捨てるものなのかな?」 「家だったら一回使ったら固めてポイ?」 「えぇぇ!勿体なっ!私は、三回くらいは平気で使うよ?」    そんな真面目なんだか、不真面目なんだかの話をしながら、皆で鍋をつつくのは愉しかった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加