夏祭りと、君と

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夏祭りと、君と

浴衣姿で歩く女性を見かけると 夏を実感する 今でも君を思い出す あの日 あの夜 君は浴衣姿で現れた 白地に紫の朝顔 帯の深い赤に 目を吸い寄せられたふりをして 君の顔を直視できない自分をごまかした 人いきれの中 からころと鳴る下駄の音が なぜか耳をくすぐった 昼間の熱気を そのまま持ち込んだような闇の中 神社に向かう途中で 君の手を握った自分のことが 僕は今でも誇らしい 誇らしくて――少し泣きたくなる あの日 あの夜 あの瞬間 朝顔よりも美しく 君は笑った あんなにも華やかに笑う君のことを なぜ僕は大切にできなかったのだろう あんなにも華やかに笑える君のことを なぜ僕は大切にできなかったのだろう 浴衣姿で歩く人を見かけると 夏を実感する 今でも君を思い出す 戻らない青春 戻らない恋人
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