時々泣かせて

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時々泣かせて

君が私の胸に縋りついてきたから 泣かなくてもいいんだよと背中をなでてあげたら 泣きたいんだから泣かせてよ、と責められた。 いい香りがしてほっとする、あなたの胸の中は泣きやすい、というから 着ていたシャツを脱いで渡してあげたら 君は嬉しいような寂しいような顔になった。 涙の製造装置なんてものはどこにもなくて それまで生きてきた経緯に沿って動作する感情によって悲しみが生まれるだけだ。 もっと辿れば 人間の性格の何割かは遺伝によって定められているもので 今更じたばたしても変わるものではない。 そういうものだと聞いたことがある。 だったら君が泣きたくなるのは 君が君であるからで 私がいようといまいと泣きたくなるはずで だったら私に何ができるかというと 君を笑顔にするためには 私はいなくなった方がいいんじゃないかということ。 けれど君はそれを否定した。 泣くことも時として必要なのだと主張した。
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