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白雪姫と王子様
よく晴れた日だったと思う。
桜が咲いていた記憶があるから、7月生まれの僕が5歳になる手前の春だったのだろう。
母親が前の日に「明日はこれを着るのよ」と新しい服を買ってきた。今まで近所の人に貰うお下がりばかりだったから、その新品の服が嬉しくて嬉しくて意気揚々と着替えた。まだボタンをはめるのは慣れてなくて、モタモタしていると「なにやってんのよ!」と怒鳴られたが、直ぐに「ごめん、ごめんね、基弥」と取り成してくれた。
ブルーのストライプシャツの胸元には、赤い星の刺繍があった。
「おかあさん、これ、かっこいいねぇ」
と得意げな僕を母は笑った。
合わせた黒いチノパンに、星とおなじ赤いスニーカー。子どもにしては大人っぽい格好だったと思う。普段の僕は車の絵や恐竜の絵のTシャツだったり、ある時にはクマの絵柄の女の子が着る服を着せられていた。そんな時は中性的な顔立ちだったことも相まって、多々女の子に間違えられたが、その都度母はそれを嫌がった。
初めての新品の服を身にまとった僕を、母は満足気に見つめた。おそらくみすぼらしいと思われたくなかったのだろう。そこら辺の人に対して、ではなく、その日待ち合わせをしていた人に。
「行くよ」
綺麗に化粧をして、花柄のワンピースに高いヒールの母はうんと若く見えた。
「おかあさん、きれい」
という僕の手を引いてくれた。
駅までの道はそんなに車も通らないが、母と手を繋げることが嬉しくて嬉しくて右手に力を込めた。
「おかあさん?どこ行くのー?」
「んー?いいところよ。電車に乗るのよ」
「わぁ!電車に!」
母の宣言通り、電車に乗った。15分くらいの短い旅だったが、僕は電車の座席に乗り窓の外を眺めた。靴をきちんと脱いだのを見て、知らないおばあちゃんが「坊や偉いねぇ」と言った。
母は興味無さそうに、曖昧に笑った。
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