ひと夏よ、涼しくなれ。

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「おい…」  数歩、後ろに下がったところで熱い何かが涼の肩に置かれた。その正体は悠鈴の手だった。湿度も温度も高いのにいったい何の嫌がらせかと眉間に皺を寄せる。 「止めるな、相棒。アイスの仇は打ってくるさ」  涼はあたりの気温を冷やすくらいクールに振る舞う。ついでに肩に乗っていた手を振り払った。 「返品が利かなくなるんだぞ!? 誰がそれを望むって言うんだ!」 「小芝居は良いから早く私に返してくれないかな! 涼のはこっちよ!」 「へ? そんなに小さいの頼んでないよ?」 「あんたが食ったんでしょうが! ほれ早く返さんか」  手元で自らの水滴に溺れ始めたアイスを見て、「仕方がないな、アイスをそろそろ返してやるか」と思った。  しかし、ここでふとただ返すだけでは面白くない(、、、、、、、、、、、、、)と思ってしまい、頭の中に浮かんだある一つの案をすぐさま実行した。 「…ほげ?」  アイスを返す時に涼しくしてやろうと考えたのだ。すべては善意から来るもの。アイスで悠鈴の顔を力強く仰いだ後、彼女の手元にアイスを乗せた。  作戦は完璧。大気の熱をアイスが奪うという正しい理論。  涼しい風を生み出せるはずだった。そのはずだった。  しかし、どうしたことだろうか。悠鈴の手にはコーンしか乗っていなかったのだ。肝心のアイスの姿はどこにもない。
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