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序
気が付くと、その赤子は見知らぬ橋桁の袂で置き去りにされ、捨てられておりました。
吹きざらしのと或る夜の事で御座ります。たまたま、その橋桁の近くを若夫婦が通り掛かりまして、月明かりに照らされながらも泣き叫んでいる赤子の気配に気付き、思わず赤子の傍らへと駆け寄りました。
「………………あらっ。………………こんな寒空の下で可哀想に。誰が、こんな場所に捨てたのかしらねぇ。」
その女の名はおひさ。見るからに、お百姓姿の身なりをしておりました。暫くの間、その若夫婦はたじろいでおりましたが、その内にその亭主である伊助がおひさに呟きました。
「………こんな場所に放っておくと、何れは狼や熊の餌食になってしまう。これも何かの縁に違いない。一度、村に連れ帰って、後の事は村長に相談してみよう。」
やがて、その伊助とおひさのふたりは、その赤子をふたりの住まいのある村へと連れ帰るのでありました。
そして、それから………。
その赤子が捨てられていた場所とは、阿波の國と呼ばれている町から遠く離れた祖谷と言う名の谷底にある村の外れであったそうで御座りまするが、当時の、その赤子にとって見れば、皆目検討も付かなかったやも知れませぬが………。
何故に、その赤子が江戸を遠く離れて、阿波の國で捨てられていたのか?
それも、因果の故でありましょう………。
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