2人が本棚に入れています
本棚に追加
伊助とおひさのふたりは、村へと辿り着くと直ぐに、赤子を連れたまま、村長の屋敷へと向かうのでありました。
村長の名は、指宿 真右衛門。その奥方の名は民枝と申しました。その二人には子息がふたりおりまして、長男の名は夢之助。それと、年の頃がふたつ違いの妹にあたる長女の名が染花でありました。
真右衛門が、伊助とおひさに話しました。
「………お前達の所帯にも、既に子供が6人もいれば世話に困るだろう。この赤子の世話はワタシ達に任せれば宜しい。ここまで連れて来て貰って済まなかったな。」
そう言うと、真右衛門は、赤子が包まれている布地を念入りに探り始めました。
「………素性の分かる書き置きが見付かるやも知れぬからなぁ。」
すると、布地の奥からは細かに見える薬箱の様なモノが出て来たのですが、それに刻まれている家紋を目の当たりにした時、真右衛門の表情は僅かに歪んでしまうのでした。
「………何?………この紋所は!!」
真右衛門の手にした印籠には、当時の将軍家である徳川氏に古くから伝わる『三つ葉葵』の家紋が刻まれてあったのです。
真右衛門はその時、それと無く、周囲に居合わせた者達の前で呟きました。
「………この子は、将来、我らの無念を背負える程の大物になれるやも知れぬ。」
真右衛門は、奥方である民枝と子息である夢之助と染花に話しました。
「………今日から、この子はワタシ達の新しい家族だ。夢之助、それに、染花よ。今日からはこの子を弟であると思いなさい。」
すると、満8歳となる染花が、真右衛門に呟きました。
「………ですが、父上。ワタクシ達には、この子の名前は分かりませんが?」
その時、真右衛門は只管に眼を閉じたままで何やら考え始められまして………。
「……………………………。。。」
最初のコメントを投稿しよう!