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暫くして、眼を見開いた真右衛門は、一切の曇りの無い面構えで呟かれました。
「………この子の名は、影丸。人の世の影となって、冥府魔道へと墜ちた者から弱き者達を救う器であると言う意味だ。」
夢之助と染花は呟きました。
「………………影丸。」
影丸と名付けられた赤子が訪れた村なのですが、その村で暮らしておられた方々は皆、平家の落人であったのです。
その御噺は………。
江戸時代から遠く離れた平安時代の末期に時間を遡る事となるのですが………。当時、現在の時代に於ける皇室は宮家と申されるかと存じまするが、平安朝時代には、それとは別に【公家】と呼ばれる血統が御座りまして。その頃、天皇と呼ばれたモノがふたりいた時代が御座りましたのですが………。
時の権力者・平清盛の増長がキッカケとなりまして、源氏と平家との間で争いが始まりましたのが、後の世で語られる源平合戦。
当時、平家が担ぎ出したのが、安徳天皇であったのですが………。
後の世の黒歴史の中では、長州下関壇ノ浦に於きまして、安徳天皇は自決され、この世を去られたとの事では御座りまするが、一説に依りますると、『お安』と言う町娘の名を借りられまして、後世に生きながらえられていたと言う噂話も御座りまする。
そのお安と名乗られた安徳天皇とそれを慕う者達が世を忍んで築かれた村。
人は、その村を【封魔の隠れ里】と呼ばれておられました。
指宿 真右衛門と名乗る殿方は、安徳天皇の血統を継ぐ者として、村人からは奉られておられたとの事で御座りまする。
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